私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十二章

第682話

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死者をだした事件の原因、その植物の種を蒔いた隊員たちが所属していたとして、ダイバは隊長として責任をとるつもりだった。しかし、それに「まったー!」と声をあげたのはダンジョン都市シティの住人たちだった。

「「「ダイバがいなくなったら困る!!!」」」
「いや、しかし……気付かなかったとはいえ隊員が怪しげな種を撒き、それが2つの冒険者パーティを全滅させた。その事実が判明した以上、隊長として責任を取るのは当然だ」

今回の事件を起こした隊員たちは元冒険者だ。冒険者時代にアゴールを見て恋慕し、同時に既婚者と知り短い恋を終えた。しかし……だからといって火がついた恋心は消えず。

「ちょっとしたイタズラ心だった」
「隊長……いえ、ダイバがケガをして引退でもすれば。もしかしたらアゴールが隊長になったら……もしかしたら俺が副隊長に」

そんな下心からダンジョン管理部に入ったらしい。そして冒険者としての実力があったことで下の隊から昇格を繰り返して、警備隊の最上位に立つダイバの隊に加わることができた。ちなみに守備隊の最上位がシーズルの隊で、ノーマンの隊は第2位だった。それもノーマンの隊は警備隊と守備隊が混合した隊であり、実力と実績、そして本人の意思によってダイバとシーズルの隊に分けられる。

2人は5つの小隊をもち、ローテーションで仕事を振り分けている。ダイバとアゴールが同行して指揮をとるのはダンジョンに入るときかフィールドの討伐に向かうときだ。それ以外の隊は緊急時ならシーズルやノーマン、ミュレイたち隊長や副隊長が代理で動かすことができる。

アゴールに横恋慕していた彼らは、ダイバが引退すればアゴールも引退するとは思わなかったようだ。

「アゴールはダイバの補佐をするために入隊した。ダイバがいなければ隊に残る理由はない」

それにダイバの実力は誰もが知っている。どんなに飄々としていても、何か起きれば真っ先に頼るのはダイバだ。逆の話をするなら、ダイバが太刀打ち出来なければ誰も対処ができない。それは滅びを覚悟することになる。

「ダイバ。責任を問われるのであれば、彼らを管理部に採用した俺たち全員にある」

管理部には簡単には入れない。常識を問う筆記試験に、現場で荒くれ者と対峙したときに相手を組み伏せる技量。魔物を討伐できる実力に、状況把握と瞬時の判断。そのどれにも合格して、やっと最下層の施設警備隊から始まる。守備隊や警備隊に警ら隊。それらを経て、ようやくダンジョンやフィールドの討伐部隊に加われる。
ダイバやアゴール、シーズルにノーマンもそうやって下積み時代を経て隊長職まで上り詰めた。

メッシュたち情報部も同様だ。元々管理部の隊員だった彼らは4つ子の特異体質で情報共有ができる。それが情報部に情報収集管理課ウラチョウが立ち上がった理由だ。情報収集には危険が伴うことが多い。ひ弱では簡単に消されてしまう。

唯一、ユーリカは特別採用だ。元々冒険者ギルドのギルド長という経験とユーリカがもつ情報解析能力の高さから事務員として採用された。しかし、ユーリカも非力ではない。冒険者登録に行った私に集団で絡んだ連中のような冒険者は多く、ユーリカも竜人特有の戦闘能力で簡単にあしらえるのだ。

「今度からは採用前に関しても調査をしよう」
「今回は、採用前に起こしたことによる結果が今になって表沙汰になったこと。そんなことにまで隊長が責任を持つ必要はない」
「子供じゃないんだ。私生活にまで責任を負う理由はないだろ」
「逆に、よく生きて戻ってきた。おかげで原因が判明した」
「調査隊が見落としたことで2度目の悲劇が起き3度目の被害が発生した。当時の調査隊が責任を問われることになった。その上でダイバが責任を負うというなら、ダイバの隊の前に所属してきた隊も責任を問うこととなる」

ダイバも気付いただろう。ここでダイバに責任を問えば、管理部全体の責任にまで発展することを。

「だいたいさぁ、ダイバは連中の親じゃないんだから。何でもかんでも責任を肩代わりしていたら……」

そこまでいったらみんなが私を見て、私はダイバを見る。

「私の尻拭い、ダイバがしてくれないじゃん!」
「させるなぁぁぁ!」
「「「ははははははははは!!!」」」

ダイバの叫びはみんなの笑いで消えた。

「エミリアと妖精たちが暴走しないように、ダイバには隊長でいてもらわなくては、な」

その言葉が今回の事件に対するダイバへの罰になった。
……その代わり、地の妖精ちぃちゃんから情報を得たギルロバから報告を受けた情報部が調査隊の記録を調べた。そして当時の調査隊は全員『お咎めあり』で減給された。

「そのどちらの隊にも、種まきした仲間がいたんだね」

怪しげな種を蒔いた全員がダイバの隊に入れたわけではない。下の隊から上がれない者も多くいる。

「結局、種蒔きに参加したのは何人いたの?」
「今のところは28人。ダイバの隊で4人、シーズルの隊には……」

ダンジョン管理部では、ダンジョンに入った冒険者が記録されている。もちろん361番ダンジョンも同様だ。ナナシがアウミといなくなるまでの間に361番ダンジョンに入った冒険者が調べられた。

「ねえねえ。それが全部同じダンジョンに種蒔きしたわけじゃないよね?」
「「「…………ああああああああ!!!」」」

報告会に参加した全員が状況を把握したようで一斉に声を上げた。

「種を蒔いたのは男だけ?」
「「「…………ああああああああ!!!」」」
「……調査再提出しなおしね」
「「「ああああああああ…………」」」

今度は声がしぼんでいく。頭を抱える者もいる。それは当然、この後に待ち受ける地獄を思い浮かべたからだ。

《 ということで、目先の調査しかしないバカどもの尻拭いかわりに調査した報告書 》
「ありがとう。で、報酬は?」
《 連中の再教育 》
「許可する」

あっさり許可が出て周囲は驚くものの、反論しようという勇気あるバカ者はいない。調査が足りなかったのは事実であり、その失敗を妖精たちに救われたのも事実であり……

《 じゃあ、全員には全ダンジョンに出没する魔物の再調査を命じます。今度は魔物の種類とドロップアイテムによって分類するよ。さあ、今回は何十日寝泊まりするのかなあ 》
「「「ひえええええ……」」」
「……ご愁傷様」

彼らに手をあわせてあげると、再教育とは無関係の人たちも一緒に手をあわせた。彼らの場合、火の粉が降りかからないようにという願いも含まれているだろう。

《 あっ、古い記録しかないダンジョンは調査に入って来てよね。もちろん全ルートだよ! 》

その言葉で、手をあわせていた半数が机に突っ伏した。
現場ダンジョンに出ない事務職員でも、記録の作成や情報の細分化……出没した魔物の分類にドロップアイテムの分類などやることが多い。ただし、報告書から書き分けていくだけで、調査部と情報部が資料として分類していく。

「魔物ごと、ドロップアイテムごとに分けていくんだ。同じことを繰り返し書いていくから、自分がどこまで記録を書き写したのか分からなくなる」

そう嘆いていたメッシュは、すでに魂が抜けかけている。その横で目を輝かせているユーリカ。彼女はそういう細かい作業が好きなのだ。

「知らないことが知れて嬉しいです!」

ユーリカは事務員ということもあり定時出勤で定時退勤。時間外労働はまだ許されていないため、時間がきたら仕事を取り上げられる方が苦痛だろう。

《 ダイバの隊には特別に休みをあげる、今回の調査は役に立ったからね。言い訳が欲しいなら『謹慎処分』にしてもいいよ。でも事件を解決に導いたって評価がでてるから、処罰なんか科したら妖精たちが仕事放棄するよ 》
「ダイバ、みんなのために特別休暇を受けてくれ!!!」

全員に頭を下げられて、さすがに断れなかったようだ。ダイバは黙って頷いた。
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