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第十二章
第673話
しおりを挟む安価で呑みたい。そうだっ! 自分でつくって売ったらひともうけ♪ あっ、でも詳しく知らないな。
ここで諦めれば問題なかった。が、愚か者の脳は普通の人たちとは繋がる回路が違った。
なあなあ、酒のつくり方知ってるか? おっ、お前も酒をつくろうと考えたのか。なに⁉︎ 仲間もいるって。だったら俺も加わらせてくれ! 俺たちって天才、賢~い。という、賢くもない連中が「酒とアルコールは一緒だろ」という単純で足りない知能からアルコールで酒をつくろうとした。
彼らが使ったのは、アルコールはアルコールでも廃油。新品のメタノールやエタノールはダンジョンで得られるアイテムのため高価で、外周部で暮らす彼らでは手に入らない。外周部に出回っているアルコールは、何度も使っては濾されて使っては濾されて使っては濾されて、明かりのランプ以外に使えないアルコールが二束三文で出回っている。
そして失敗を繰り返し、ちょっと休憩でタバコに火を点けたら……どっかーんっと一発ハゲ頭、ではなく真っ黒け。
当然だ、失敗して目の前から消えたはずのアルコールは気化して彼らの周りに漂っていたのだから。アルコールの詰まった樽に沈んで、中で火の魔法を使ったようなもの。運がいいのか悪いのか、密閉して作業していた彼らは閉じていた建物の窓玄関を開放していた。そのため気化したアルコールがすべて爆発したのではなく、建物の外へ爆風で拡散された。火が気化したアルコールをたどり、離れた場所でも大小様々な爆発を繰り返した。
外周部で起こったこの大事故は、毒というか病原菌というか。アルコールが空気中に広がって起きた火事や爆発だったが、それ以上に匂いも拡散して急性アルコール中毒患者があふれかえった。
血中のアルコール濃度が跳ねあがり、多数の住人が昏睡状態で発見された。最初は爆発の被害者と思われたが倒れた原因が分からず。その結果、体内に取り込まれたアルコールを取り除くなどの治療が遅れた。
何が起きたのか、何が原因かなどすぐにわからなかったからね。そのときに使われたのが下剤と嘔吐を促す薬。「とりあえず毒を体外に出してしまえ!」という強行策だ。
悪いことは重なるもので、ここでトラブルが発生した。
下剤と下痢止めを勘違いした人が『腹下させ草』の調合をミスった。下剤に使われるのは葉の部分で、下痢止めは根を使う。『下剤で腹を下させ葉』と覚えるらしい。
ここまでいえばわかるだろう。
調合窯を持たない、または個別対応で大量に調合しない薬師。そして値の張る調合窯ではなく鉄釜で火に薪を焼べる昔ながらの方法で調合するにわか錬金師。彼らの中で後者の彼らにレシピを見ながら正しく作らなかった者たちが『腹下させ草の根でつくった』薬を下剤として配った。
下剤で身体から毒を出さなくてはならない人に下痢止めを与えたら出せるはずがない。悪化して死者が出てもおかしくない状態だった。それは治療院に送られたことで正しい処置を与えられて、多少の手遅れにはなったが回復できた。
治療院は事故の現場で急性アルコール中毒になった人たちの処置にかかりきりで、運ばれてこない人を気にかけている余裕などなかった。重篤患者が1人、2人。そして10人、30人、50人と運び込まれてきた。 そこでどこに住んでいるのか調査したところ、ある一画に集中していることが判明した。
そしてダンジョン管理部に調査の依頼がきてダイバたちが動くこととなった。
「薬師の調合ミスの可能性があります」
治療院だってバカではない。彼らに処方されている薬が浣腸薬ではなく飲用だったことで調合ミスだと判断したのだ。
「エミリア、一緒に来てくれ。調合ミスらしい」
「報酬、シーズルのその腕輪」
「バカか! そんなもんを報酬にするか! 金か宝石だ」
「いいぞ。前々から欲しがってたもんな」
「ダイバ! 勝手に決めるな!」
「エミリアは部外者だ。部外者の手を借りるときは本人の望むものが相場だ」
シーズルが正論に勝てるはずもなく……腕輪を対価に差し出した。私がこれを欲しがった理由はまた別の話。
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