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第十二章
第672話
しおりを挟む「これが腹下しに使う薬草、こっちが解毒を含めた『吐き出し草』」
「フム、よく似ている。それでこれはどう見比べるのかね?」
私が差し出した2本の薬草を手にしたコルデさんとアルマンさんは、まったく似ている2本を見比べる。あまりにもそっくりなこの2種類は『薬師泣かせ』という別名を持っている。
「いくつかあります。花びらが5枚なら腹下し、花びらが7枚なら『吐き出し草』。ほとんどの薬草は、ガクの数が花びらの数と同じです。なのでガクを確認するといいでしょう」
「この腹下しに使う薬草の名前は?」
「あー、……『腹下させ草』です」
ここで一緒に講習を受けているダイバたちからザワッと声があがる。腹下しと聞いて多分誤解していたのだ、『お腹を下したときに飲ませる下痢止めをつくる薬草』なのだと。
それだけではなく、腹痛などの原因物質を体外に出すために使う下剤用の薬草のでもあるのだ。
そんなミスは未熟な調合師が起こしやすい。薬草の名前から思い込みでつくるからだ。
「例えば食中毒、この場合は毒を体外に出さなくてはなりません。ですが、時間が経っていれば胃をとおりすぎて腸に入っています。そんなものを吐き出させることは難しいです。そのために下剤を飲ませます。……この薬草は使用量を変えることで、小さな子どもでものめる優しいものから超強力な下剤を作ることができます。それこそ腸洗浄ができるくらいで……強力な下剤は口から飲むのではなく……浣腸で体内に流し込みます」
「「「ひええええええ!!!」」」
若い隊員がお尻を両手で押さえる。…………君たちは小中学生か?
「もしも口から飲んだら……」
「「「飲んだら?」」」
「吐いて、吐いて。水を飲んでも吐いて。胃が傷んで胃酸が胃に穴を開け、まわりの臓器も傷めて、逆流した胃酸はノドを炎症させる」
「おい、それって」
「まさか、外周部で起きたあの……?」
「そう、これが『バクダン大事故』の二次災害に繋がった薬が作られた。あの危険薬物第一級の材料だよ」
「「「ひやぁぁぁぁぁ」」」
ダイバの部下たちが青ざめながら悲鳴をあげる。後ろではプラスで右往左往して騒ぐ隊員もいる。彼らは数年前に外周部で起きた大事故とその後に起きた事件を覚えているのだ。
『バクダン』と聞いて何を思い浮かべるだろう。やはり爆弾だろうか。しかし日本には第二次世界大戦後に出回ったバクダンという名の密造酒があった。焼酎だったという。
酒好きのせいか「呑んでないとやってられっかー!」の精神が蔓延したのか。日本人は国策で植えたさつまいもや麦で焼酎をつくった。これは『カストリ』と呼ばれるものでやはり密造酒だ。
ちなみに酒粕から作られる『粕取り焼酎』とはまったくの別物である。
そして業務用でアルコールが作られていたが、飲酒出来ないようにメタノールをぶち込んで色もピンクに……どこかの世界で出回る恋愛頭脳のヒロインに多い髪の色である……当時この色は「飲んだら死ぬべ。死ななくても目が潰れるべ。どーなっても知ーらんべ」という意味らしい。
恋愛頭脳のヒロインにも当てはまるな~。そんな理由からピンク髪のヒロインが誕生しているのかも。
まあ、それはさておき。そんな危険な業務用アルコールが横流しされて出回った。カストリが密造酒なら、バクダンは闇酒という。
そして、この世界でも中途半端な知識の愚か者どもが集まった。中途半端な脳を持った者が集まっても正解に辿り着くことはない。愚か者は何人集まっても愚か者であり、愚か者だからこそ……手に負えない。
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