私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十二章

第670話

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ダイバは入り口近くでテントを張った状態で隊員たちを2日間休ませることにした。一時的ではあるが、精神が不安定になったパニックに陥った彼らの状態を思ってのこと。その間、私はダイバたちのパーティテントの客室が与えられた。

「自分のテントを持ってるぞ」
「ああ、オヤジたちはそれを使ってもらってもいいけど……エミリアが、それにアゴールもちょっとな」

ダイバがちらりと私の方に目を向ける。その目は私ではなく、タコの吸盤よろしくくっついて離れないアゴールに向けられている。

「は~い、私も自分のテントで寝る~」
「却下」

右腕の上腕にアゴールの腕が絡んでいる。そのため動く肘から下をひょいと上げて意見を言うと、ひょいとアゴールの手が出てきてあげた手を下ろされる。

「エミリアさんは私と一緒に寝るの」

今度は自由な左足を膝まで上げる。

「はーい、起きている間は自分のテントで過ごす~」
「却下」

アゴールの足が、私のあげた足の上に乗ってきて下される。御御足おみあしがスラッと長くて美しいけど、討伐の任務中は安全のためにズボン着用が義務付けられていて隠れている。魔物に噛みつかれたときに足が守られるように強化済みなのだ。

「……だからといって、その格好はどうかと思うぞ」
「エミリアさんを離さないためだからいいんです」
「しつこくすると……嫌われるぞ」
「………………もん」

ダイバに「嫌われる」と言われたアゴール。私に抱きついたまま俯いているため、私の肩口にうずめた口から声が漏れるものの一番近い私でも聞き取れない。

「ん? なんだ?」

ダイバでも聞こえないだろうアゴールの声に全員が耳をそばだてる。アゴールは目覚めて妖精たちに叱られてからは、私を壊さないように気をつけて抱きしめている。……足が私への執着を無言でアピールしているが。

「………………もん」
「アゴール?」
「………………いもん」

ダイバが再度声をかけるが、アゴールの声は小さいまま。私を抱きしめる両腕は小さく震えていた。私とダイバは互いの視線をあわせる。アゴールが暴走する前の状態に近いのだ。

「アゴール……おい」
「……ならないもん! エミリアさんが私を嫌いになんかならないもん! エミリアさんは私の前からいなくならないもん! 出て行って、そのまま帰って来ないことないもん!」

うわああああ!!! と幼子おさなごのように声をあげて大泣きを始めるアゴール。

「エイドニア王国からいなくなったときの話を聞いたのか」
「ひとりぼっちのエミリアさんをっ、みんなが追い回してっ、国から追い出したんだっ!!! いっぱい、いっぱいいっぱいいっぱい、いぃぃぃっぱいっっ!!! 世話になっておきながらぁぁぁ!!!」

どうやら、色んな話が混ざりあってアゴールの耳に入った様子。そういえば、エリーさんやキッカさんたちが後悔を口にしてたらしい。それがまとめてひとつになったようだ。

「アゴールはぁ……私の帰りを待っててくれるの~?」
「……当たり前よぉぉ」

むぎゅむぎゅむぎゅ~っと私を抱きしめて、頭を後ろからすりすりすりすりと頬ずりしてくる。……ハゲるからめれ。(おっと方言が)

「じゃあ、必ず帰るから。ちゃんと待っていてくれる?」
「やだっ! 一緒にいくの!」

完全に駄々ダダっ子状態である。

「じゃあ、フィムたちはどうするの? 捨ててくの?」
「……それもいやぁぁぁ」
「じゃあ、私が帰ってくるまで待ってて」
「エミリアさんひとりだけ行かせるのもイヤぁぁぁ……」
「ダイバも連れて行くよ?」
「ダイバだけじゃ、しんぱーい」
「おいっ」

ダイバが苦笑しながらツッコミをいれる。アゴールは私を『行かせたくない』から『ひとりで行かせたくない』に変わっている。少しずつ執着が薄れてきた証拠だ。

「俺たちも一緒はどうだ?」
「ついでだからキッカたちも連れて行くぞ」
「……エミリアさんの盾になって、エミリアさんの代わりに死んでくれる?」
「ああ、彼らは『鉄壁の防衛ディフェンス』という名のパーティだ。恩があるエミリアちゃんの代わりなら喜んで盾となり死んでくれるさ」

完全に死ぬこと前提で話が進んでいるし、勝手に鉄壁の防衛ディフェンスは盾となって死ぬことがアゴールとアルマンさんのゆびきりで契約成立してしまった。
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