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第十二章
第665話
しおりを挟む「気をつけて行ってらっしゃい」
「ああ」
「行ってくる」
「行ってきま~す」
コルデさんとアルマンさんと私という珍しい組み合わせ。でも理由を聞けばそう珍しくはない組み合わせ。
冒険者学校ができてから、その道に詳しい人から特別に教授してもらうことが増えてきた。私はダイバ以外に教授しないが……コルデさんが私の義父になったことで、私が教授することはおかしくない。そして、エア名義の頃に2人のパーティに身を寄せていたことも知られている。
「お、エミリア。こんな時間からダンジョンか?」
関所の受け付けにいたのはダイバと同じ管理部の討伐隊隊長。来年の都長だ。
「今日の受け付けはギルロバ? 平に格下げ? メイリに捨てられた?」
「ンなわけあるか。巡回で立ち寄っただけだ」
ギルロバがスッと周囲に目を向ける。何かに警戒しているのだろう、隊員が一緒にいないということは関所前広場内に不審者がいるということ。メイリの生まれもったスキルは【鷹の目】。数メートル高いところから周囲を見張れる魔法の『鷹の目』とは違い、スキルの場合は特定した個人をどこまでもピンポイントで追える。特定は数十人を同時に見張ることもでき、一度狙った相手はどこまでも追い続けられる。
ただその能力を行使している間は身動きが出来ず、使用後は疲労困憊で寝込んでしまう。精神的な疲れのため回復薬は効かない。1日2日眠って休めば回復するが……
「ねえねえ、ダイバと同じダンジョンに行きたい」
その言葉で私たちがきた理由がわかったのだろう。
「状況は聞いているか?」
「『空気循環の魔導具が不具合を起こしているのか、澱んだ空気が滞っていて人体に悪い空気が溜まってる』。……違う?」
「いや……あってる」
そう、言い方を変えればそうなるのだ。管理されたダンジョンである以上、ダンジョン内の空気を循環させる魔導具が設置されている。『毒ガスが充満している』ということは、魔導具が不具合を起こした可能性が高い。
《 ぼくが一緒だからダイバたちがいるダンジョンに入れるよ。ここにギルロバがいるってことは緊急性が高いんでしょ 》
風の妖精が風で私たちの会話が周囲に聞こえないように覆ってくれたため、地の妖精が隠さずに話をする。ギルロバも声が漏れないと気づいて、少し安堵の表情をみせる。
「ダイバから連絡がいったのか?」
「ううん、妖精ネットワーク」
「じゃあ、情報は的確なんだな……」
ギルロバは目を泳がせる。ほかに心配があるのだろうか。
「どした?」
《 元々おかしかったけどね 》
「誰がだよ!」
《 ダイバが入ったダンジョンだよ 》
「……へ?」
地の妖精の言葉が自分に向けられたと思ったようだけど、今は揶揄っている余裕はないのだ。
《 ダイバたちがいるのは361番ダンジョンだね。ここって去年と3年前に死亡事故が起きたよね。原因は調べたの? 調べて安全だって確認したから再開したんだよね? 》
「ああ、調べたぞ」
《 361番ダンジョンは3本あるよ。もちろん全部、死亡事故が起きた3本目も調べたんだよね 》
「……のはず、だ」
ギルロバの言葉が弱くなる。
「まって! 地の妖精、もしかして、事故が起きているのは全部同じダンジョンってこと⁉︎」
《 お利口、お利口。エミリア、ちゃんと考えてるね 》
地の妖精と風の妖精に左右から頭を撫でられる。
「ダイバたちが入ったのも同じダンジョンということか」
《 今から行く。行って調べてくる 》
《 毒ガスは私が回収するから 》
「それを集気瓶に入れればいいね」
「それをこっちに回してくれるか?」
「無毒化したら、ね」
《 気が向いたらね 》
《 文句言うなら空瓶を渡すよ? 》
「肥溜めの臭気を詰めてあげるよ」
「……文句言いません。ごめんなさい」
平謝りのギルロバ。過去にノーマンが湿地帯のヘドロを土産にされたことを覚えているのだろう。余計なことを言って妖精たちを怒らせたノーマンは、留守の間に部屋の四隅にヘドロの入った木桶を置かれた。帰ったら室内がヘドロの臭いが充満して酷い目にあったのだ。四隅の木桶すべてを片付けても換気をしても臭気は抜けず。私とダイバ、シーズルと一緒にノーマンの部屋に行ったら……ベッドの下にも木桶が置いてあった。それもすぐに気付かなかったから自然発酵していた、というオチもついて。
妖精たちを怒らせた理由は簡単だ、『仕事が忙しいからと言ってシエラとの時間をすっぽかした。ドタキャンした。それも1度や2度ではない』というもの。それを聞いた私たち、そして部外者は全員声を揃えた。「お前が悪い」と。
ギルロバはそのときノーマンを笑う側だった。もし今回のことが地の妖精のいうとおり事故が起きたダンジョンだけ調べていなかったことが原因なら大事になる。
「笑われるだけではなく、責任追求されるだろうね~」
もちろん自己責任だから管理部に責任はない。しかし落ち度は責められるだろう。
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