私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十二章

第659話

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ムルコルスタ大陸のペナルティが解除されたからといって、すぐに威力が上がるわけではないし、知らない魔法を使いこなせるわけではない。

「今まで本を読んでも理解できなかった魔法の構造が少しずつ分かるようになる」

という状態らしい。

「エミリアさんはこの世界に来てから魔法を取得したんでしょう? どうだったんですか?」
「私? 私は魔法の知識って遊んでいたゲームで知っていたし。ゲームで知り得た知識だけど実際の大きさとか威力がわからないから、ダンジョンに入って魔物を相手にしようと……? なんだっけ?」

私がその先を思い出せなくて横へ身体ごと傾ける。右に倒して思い出せず、今度は左に倒してみるとダイバの手が私の頭を支えた。

「オヤジ、アルマン。何か覚えていないか?」
「あー、そういえばが初めて入ったダンジョンは、アントに占拠されて巣になっていたな。結構大きな事件になっていたぞ」
「そうそう。それが討伐隊で向かったエリーやキッカたち、ほかの腕利きの冒険者たちの功績にいつの間にかすり替わっちまってて……それが1度や2度ではなかったな」

2人の言葉に「んんんー?」と思い出そうとする。

「な~~~んか……『アリは水に足を取られると動けなくなる』って小学校の理科で習ったのと、ゲームで『隠し部屋がありそうな場所には壁や床などに小さな痕跡が残っている』って……?」

言いながら不安になってきた。当時のことを覚えていない、ただだ。

「そうそう、討伐隊でダンジョンに向かった連中からアリの有効な倒し方を教わったと聞いたぞ。おかげで今まで苦戦していたのが無傷で倒せるようになったとユージンとフォスターが言っていたっ」

コルデさんの言葉が詰まる。亡くなった仲間を思い出したのだろう。

「討伐隊に参加したほかの冒険者たちも、新しい知識が得られたと喜んでいた」

その冒険者たちの中に「エアが聖女だ」と口を滑らせてしまった人がいたそうだ。その冒険者に他意はない。脅威と奇跡を目撃し、興奮気味に知人に話していただけだ。ただそのひと言が王都内を混乱に落としたと悔やみ、深く後悔したらしい。

「セイマール地方の開拓団に加わったらしい」

あの悲劇が起きたことで今どこにいるのか、生きてどこかで復興に加わっているのかは分からないそうだ。


「錬金はさ『なんとなくやってみたら出来ちゃった』かな。生産系のゲームはあったけど、そこまでやりこんでないから。ただ物を理解していれば可能だっただけ。例えば『火を纏うつるぎができた』となったら、じゃあ、違う武器でやってみよう。今度はこの武器、こっちの防具でも作ってみるか。装飾品アクセサリーも作れそうかな? あ、作れた……って感じ。それと同じく、回復薬同士で掛け合わせてみよう。今度はできた物同士で掛け合わせて、今度はこっちの薬と掛け合わせたら? って」
「つまり、エミリアは錬金でも調剤でも成功したらそれで満足しないで、さらに掛け合わせていたら強力なモンが出来ちまった。ってことか」
「ってことだ」
「好奇心旺盛な奴が成功するんだな」

そう言ってダイバが頭を撫でてきた。

「それでうまれた万能薬のおかげで沢山の人たちが生命を救われた。エミリアはやっぱり聖女なんだな」
「えー、それって嬉しくな~い」
「……さすが俺の娘だ。いやあ、末っ子が人助けに一役買ったなんて鼻高々だな」
「偉い?」
「おお、偉いぞ。こりゃあ、ダイバたち兄姉きょうだいも頑張って名を売って俺たち親世代を養えよ」
「そうそう、妹に負けるな。親世代だけでなくじーさん世代も養え」
「いもーとも養え」
《 私たちも養え~ 》
「あ、俺たちも~」
「そうそう、ダンジョン都市シティの住人全員も養えー」
「……寄生するな」

私たちの盛り上がりにダイバは苦笑する。

「今度から都長とちょうが住人を養えばいいんだよ」

そう言うと笑いと悲鳴が混在した。
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