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第十二章
第655話
しおりを挟む平家が滅んだのは800年プラス数十年前。この世界と時の流れが同じなのかわからないけど。
「歴史はめぐる……巡ってないけど」
「結末は違うが似通っているな」
「……ほかにもあるのかな」
私の言葉は、旧国と今のシメオン国に何があったか話し合っている彼らには届かず……。隣にいたダイバは黙って私の頭を撫でてくれた。
「あったとしても、そのことでエミリアが悲しむ必要はない。この世界のことはこの世界の連中が責任を負えばいい」
ダイバの言葉が正しいだろう。
以前、ダイバと向き合って召喚されたことについてどう思っているのかを話し合ったことがある。私の存在も『この世界の人間による愚行の被害者』で、ダイバが言うには「まだ正式な謝罪を受けていないから感情を打つける場所がないんだ」と。だから1度ちゃんと気持ちに向き合う必要がある。そう言われたのだ。
「でも、私たちを召喚させた張本人と国王は罰を受けたよ」
「それにエミリアは関わったか?」
「……関わってない。2人とも不死人の罰を受けたけど」
「どんな形であれ、エミリアに謝罪したか?」
ぶんぶんぶんっと首を左右に振る。勢いよく振りすぎて、ダイバが頭に手を乗せて止めたときに少し目が回った。
「いま、どう思っている?」
「……喚き散らしてやりたかった。いっぱい、いっぱい……たぶん、言いたいことがあった」
「これはエリーが言っていたことで……心して聞いてほしい」
そんな言葉から始まったダイバの話。それは、この世界で聖女の召喚が行われる度に、私たちの世界で多数の死傷者を出す災害が起きていたという信じられない話だった。
聞いた私は……発狂した。アラクネが地下に連れていき、騰蛇が封印された廃国の中へと運んだ。その間ずっとダイバは私が放った魔力で傷つき血を流しながらも抱きしめ続けていた。
廃国の中で私は感情のまま魔力を暴走させた。
「エミリアは一度でいいから感情を爆発させた方がよかったんだ。なあに、俺は竜人だからな。アゴールの暴走を考えたらエミリアの感情なんか可愛いもんだ」
廃国に移っても泣いて叫んで騒いでいた私を、ダイバは変わらずに抱きしめて慰め続けてくれた。切り傷も打撲も気にせずに……疲れて眠った私をまるであやすように。
回復薬で簡単に傷が塞がったダイバの姿をみたアラクネが「もっと傷つけてもよかったんじゃない?」と笑ったがダイバは静かに口を開いた。
「それでエミリアが悲しむことになってもか?」
アラクネが驚いた表情をみせるとダイバは大きく息を吐く。
「回復するとはいえ、傷をつけたことを知ったエミリアが悲しむと思わないのか? 今の言葉でも、エミリアは傷ついているぞ。だから『蜘蛛女』と言うんだ。人間としての心を失ったか」
ダイバの言葉にアラクネは「いやああああああ!」と悲鳴をあげると頭を抱えてしゃがみ込んだ。
ダイバはアラクネを『蜘蛛女』と呼び、私がつけた『機織り女』とはけっして呼ばない。以前、ダイバに聞いたことがある。だって、ダイバは相手が嫌がるようなことはけっしてしないのに、アラクネには厳しいから。ダイバが言うには、アラクネは蜘蛛になっていた後遺症で人らしい優しさを忘れているそうだ。
「私には優しいよ?」
「エミリアだけな。知ってるか? エミリアといつも一緒にいるというだけで妖精やピピンたちにまで嫉妬しているんだぞ」
それはなんとなく気付いていた。だって妖精たちは私とくっついていないと地上に置いていく。妖精たちは自分で来られるから大丈夫だけど……緊急事態に妖精以外にそんなことをしたら、きっと私はアラクネを嫌い拒絶するだろう。
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