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第十二章
第654話
しおりを挟むそれが旧シメオン国の民。
「美しくなければ民ではない」
そう言った信仰国の国王の言葉を聞いて、ひと言。
「平家にあらずんば人にあらず。by . 平時忠」
「……何だ、それは?」
平清盛の言葉だと誤って信じている人もいるが、実際には清盛の正室(平時子または二位尼)の弟、平時忠の言葉。
「同母の姉が当時のお偉いさんの正室。この世界でいうなら国王の嫁さん、正妃? 王妃? になったことで自分も王族になったつもりで偉いと思い込んだ勘違い大馬鹿野郎。で、そいつが栄華を奢って『俺たちの一族じゃない奴は人間じゃねえ』と言ったんだよ」
「ソイツって一族とは関係ないだろ?」
「いや先祖は同じ、つまり国王と同じ一族ではあるけどめっちゃ遠い薄まった血筋。それが、『姉ちゃんが一族の王様と結婚したぜ~。俺は王様の義弟だヒャッホー』とハイテンションで、立場を弁えずにぶっ放したセリフがアレ。で、巨星墜つ。清盛さん……えっと国王が死んじゃったら、それまでの不満や鬱憤が爆発して形勢逆転。国王が南都の寺院や仏閣をまるっと焼いちゃったことで『仏を敬わない』って思われたからね。神を信じない奴は無敵だよ~、怖いもの知らずなんだから。そんな人がいなくなれば反撃を食らうのは当然」
そして起きた源氏の挙兵。
栄華という夢が移ろう事実から目を背け、甘い夢を享受して堕落した日々を送る平家。敗者として失われた日々を取り戻すために一族の復興を目指す源氏。
「一戦交えずとも分かりそうなもの。立場を追われ都を追われて遠く遠くへ。……そして行き場をなくして船を出して海の上に逃げた。それでも追って追って。男たちは笛を持つ手で刀を握り、果敢に女子供を守って討たれ…………女子供も覚悟を決めた」
『波の下にも都がございますよ』
そう言ったのは二位尼。海に身を投じるために抱き上げた6歳の安德天皇に「前世に徳を積んで天皇として生まれたけどこの世は乱れているから極楽浄土に向かいます」と言い聞かせると小さな両手を合わせた。それを慰めるために言った言葉だ。そして、三種の神器のうち勾玉と神剣を抱えて飛び込んだ。
「なんだ? 三種の神器って」
「天皇……国王になるために必要な道具。鏡と勾玉と神剣。それを捧げて神に王として認めてもらう。その三種の神器のうち、取り返せたのは鏡と勾玉のみ。神剣は永久に失われた。平家にしてみれば天皇は安德のみ。以降は『神に認められない天皇』というわけ。でもね、以降は現代まで天皇は存在しているの」
私の言葉に両腕を組んで考えるダイバとスーキィたち。妖精たちも腕を組んで《 うーん 》と考えている。
「ねえ、エミリアちゃん。もしかして、その神器というのはメダリオンと同じ象徴ってこと?」
ミリィさんのもらした言葉にみんなから驚きの声があがる。
「3つの加護のひとつ、雨叢雲剣。文字のとおり、雲を呼び雨を降らせる加護を持っている。別名は草薙神剣」
「……二つ名があるのか? それとも別の……?」
「そこは神剣だから『神のみぞ知る』」
私が立てた人差し指を口につけて笑うとみんなが苦笑した。
「続けて身を投げた安徳天皇の母親は、源氏の兵によって救われた。もしくは二位尼に『生きて我らの菩提を弔え』と言われたとも伝わっている。まあ、生き残ったってわけ。で、生き残った中に男もいる。その一人が平時忠」
「死ななかったのか⁉︎」
そう、死ななかった。それも平氏であって平家ではないと敵の将に情けをかけられて……生きのびた。
「敵に娘を差し出した。国王の弟がその娘を妾にしたことで、また権力をつけようとしたけど……結末は後世にも語られ続ける悲劇だよ。頼朝は義経を自刃に追い詰めた。それはまるで……一族で海に沈んだ平家にしたことと同じように」
すうっとみんなが表情を消す。それに似た話がある国でも伝えられているからだ。
「まるでシメオン国の初代国王と異母弟の悲劇そのものじゃないか。それにエミリアちゃんが話してくれた内容は国を追われた旧シメオン国の国民そのものだ。違うのは生きて海を渡ったかどうかだ。しかし追っ手と戦いながら逃げたことまで同じとは……」
アルマンさんの指摘どおり。旧シメオン国の滅亡はまるで平家のようだ。そして旧シメオン国最後の王は子供だったという。平家と違うのは、ムルコルスタ大陸からペリジアーノ大陸へと渡ったことで追っ手から逃れることができた点だ。
そして旧国民を追い詰めて大陸から追い出した異母弟は、今度は自分がしたことと同じように初代国王に追い詰められて……仲間を道連れに自爆していた。
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