私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

文字の大きさ
上 下
629 / 789
第十二章

第642話

しおりを挟む

ムルコルスタ大陸にいるキッカさんたち鉄壁の防衛ディフェンスは、引退しても顧問として名を残すアルマンさんやコルデさんに定期報告をしている。月に1回、最初の頃は週一で彼らは個々で連絡してきていた。いわゆる生存確認だ……彼ら自身の。

その連絡メールの中で引っかかる情報が入っていた。エイドニア王国セイマール地方から干潮時にのみ渡れる、地続きの火山島の噴火に異常が起きているらしい。元々ここは10キロほど大陸から離れた孤島だったのが、長年の噴火で流れた溶岩が冷えて繋がったそうだ。ただし海流に削られ続けるため、干潮で渡れる海の道は海面から50センチ下にあるらしい。

「栄養満点の溶岩だから魚たちのエサにちょうどいいよね~。海にとってもいい栄養が含まれているから、波が世界中に運んでくれるし」
「おい、エミリア? その火山が以前エミリアが言っていた噴火に関することではないのか」
「……たぶん違う」

前兆があるなら神が放置するはずがない。世界全集の記載通りなら、火山は今でも神が管理しているのだ。そうじゃなければ、いくつかの火山島で温泉をメインとした保養地として成り立たないだろう。

「エミリアちゃん、行ったことあるの?」
「あるよ。巨人族、おっきな方の人たちね。その人たちが住んでる島があるの」

彼らが「いやしの水を温泉に使ってもいいか?」と聞いてきたのは、妖精たちと出会う前。ピピンとリリンが一緒に住み始めて、私がある程度起きていられるようになった頃。ピピンが世界全集で温泉地として一番近い島を教えてくれた。使用を許可していた書架に日本の温泉地の雑誌を並べて置いていたので、温泉が身体に良いと気付いたらしい。

普通に飛んでいったら、航路から外れている島に客が来たって大騒ぎになった。

「上を下への大騒ぎでさ、事情を話して療養させてほしいと頼んだらこころよく引き受けてくれたんだ。寝ている間も温浴までしてくれて、それをピピンが覚えてくれて。妖精たちと一緒に暮らすようになっても、私が倒れるとテント内の浴室で温浴療法で世話をしてくれたんだ」

作務衣さむえのような浴衣よくいが用意されていて、それを着て眠っていた私は巨人族の人たちに世話をしてもらった。……目が覚めたときに、8歳の女の子が私をひざ抱っこ状態で温泉に入っていた。目を覚ましたのに気付いて、大切にお姫様抱っこで運ばれた。長めの眠りから目覚めてもリハビリが必要になる。それがリハビリも兼ねた温浴で、多少の違和感が残ったものの普通の生活に戻れた。

「ただ寝かせるだけより、ハーブを浮かべた風呂で温浴する方が身体の回復にいいと教わりました」
「私も色んな植物を分けてもらって、テントの温室で育てたんだよ」

リリンは本当にたくさん勉強していた。ひとえにハーブと言ってもたくさんの種類があり、用途や効能も多岐に渡る。のんで効くものから温度に弱いもの、温浴に使えるものまで。

本にしてたくさんの人に知ってもらえないかとポンタくんに相談したら、まずレポートにしてほしいと言われた。ピピンの協力の元、妖精たちにも手伝ってもらいながら知り得たハーブの知識をレポートにまとめ、植物を記録した魔導具も一緒にポンタくんに送った。

ポンタくんはその情報の多さに目を回し、希少性の高いハーブが含まれていたことに気付き、泡を吹いてひっくり返ったそうだ。

「すでに存在が伝説化した薬草まで……!!!」
「薬草じゃあな~い、のぉ。ハーブ、よぉ~」

まだ上手く喋ることができなかったリリンだったが、一生懸命に自分だけではなくピピンや妖精たちの協力でレポートにできたこと。さらには自分は教わっただけで本当に評価されないといけないのは巨人族の人たちだ、と訴えた。

「それではその巨人族の皆さんからも許可をいただきます」

……これが巨人族の人たちに向けられてきた今までの評価が驚くほど大逆転した。隠れ住んでいた彼らは、今ではこの本のが有名になったことで知識の高さが認められで有名になった。その本を知っている人から巨人族に対しての差別意識は薄くなった。まあ……最初は大きい身体に驚かれているが。

温浴や浴衣よくいが知られて共同浴場や露天風呂で採用されると、温浴療法による治療も用いられるようになった。治療院でもハーブを使った温浴療法で、リハビリの期間が短くなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

【完結】略奪されるような王子なんていりません! こんな国から出ていきます!

かとるり
恋愛
王子であるグレアムは聖女であるマーガレットと婚約関係にあったが、彼が選んだのはマーガレットの妹のミランダだった。 婚約者に裏切られ、家族からも裏切られたマーガレットは国を見限った。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。