私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十二章

第635話

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自我をとり戻したセリシアは、とにかく狂ったように叫び続けた。竜槍に心を奪われてからの記憶は途切れ、気付いたのはその手で両親を竜槍で貫いた瞬間だったのだ。そして両親の消滅を目の当たりにした。

竜槍は竜人にとって命綱でもある。竜人が自我を忘れて暴れてしまえば簡単には止まらない。以前、私がれた火龍の攻撃を受けそうになったとき、アゴールがブチ切れた。あのときはアゴールが火龍を一撃で倒したし、アゴールより強いダイバも妖精たちもいた。私も強力な睡眠スプレーを持っているし、アゴールを怖いとは思わなかった。だいたい、私が危ない目にあったことでアゴールは切れたのだから私に危害を加えるとは思わなかった。それは誰かわたしを守るための暴走だ。

しかし、竜人によってはセリシアのように私欲で暴走する者もいる。誰にも押さえられないときに……最後の手段として使われるのが竜槍だ。火龍たちのような始祖龍を倒せる竜槍は、竜人を赤子の手をひねるほど軽くその生命を奪えてしまう。

セリシアに手足を斬られた男性たちが消滅しなかったのは、排除が目的で対象ではなかったから。しかし斬られた痛みはあり、治癒したとしてもリハビリをしないと動かない。

これまでのセリシア自身の言動が災いして、死でも追放でも甘いという声があがった。そして不死人しなずびとの処分を願う人々の声は多かった……


「イヤよ! 私は可哀想な娘なのよ!」
「……殺したのは貴様だ」
「違うわっ! ! 殺したのはセリシアよ!」

不死人しなずびとの処置として膣口を縫われて焼いて閉じられたセリシアは、その身を公開処刑会場に引き摺りだされるとそう騒いだ。
怒気を含めた、拒絶する白い目で見ているだけで誰も何も言わない。セリシアの言葉を誰も聞いていないし、聞きたいとも思わない。

「姉さん! セイリア姉さん! 助けて!」

観衆の中にセイリアを見つけたセリシアが泣きながら「私はセシリアよ!」と訴える。

「何を言ってるのかしら?」
「セイリア姉さんなら分かるはずよ! 私はセシリアだって!」
「ええ、わかるわ。あなたがだってね」
「違うっ! 私はセシリアよ! セイリア姉さん、目を覚まして! セリシアに操られているのよ!」
「いいえ、私は操られていないわ。セリシア、あなたがセリシアだという証明をさっきから口にしているじゃない」
「な、にを……?」
「私を『セイリア姉さん』と呼ぶのはあなただけよ、セリシア。だってあなたにとって姉は私とセシリアの2人だから。セシリアは姉が私だけだから『姉さん』と呼ぶわ。そんなことも知らなかったの?」

セイリアの言葉に目を見開き周囲を見回す壇上のセリシア。

「セシリアはここにきていないわよ。今頃ランディと一緒だわ」

セイリアの言葉に醜悪な表情で口を大きく開くが、背後から猿轡さるぐつわで口を塞がれる。

「グッ……グオ、オ」

くぐもった唸り声がもれるだけで発声にまで至らない。

「それに、忘れたの? あなたのその腕、斬り落としたのは私よ」

セイリアはセリシアの左側をスイッと指を差す。上腕の半分の位置で斬り落とされたその腕は止血処置で縫われたためか、さらに半分ほど短くなっていることを5分丈の結ばれた袖口が揺れて示している。

……不死人しなずびと焼鏝やきごてが準備できたようだ。
目の端にそれを見たセリシアは、セイリアの対応が時間稼ぎだったとようやく気付いたのだった。


セシリアとランディは会場から遠く離れた長老の家にいた。セシリアは両親の死は自分のせいだと後悔し、ランディはセリシアに対しての自分の対応の悪さを悔やんだ。
長老もセリシアの公開処刑を見届ける役目を息子に任せて2人と共にいる。

「長老様」

扉がノックされると静かに開かれた。

「セリシアの公開処刑は無事に終わりました」
「……そうですか。ご苦労様でした」

中にセシリアとランディがいることに気づいて報告だけにとどめる。長老への詳細報告はあとでもいい。そう判断して短く伝え、長老もその優しさに気付いて頷く。

「さあ、2人も家に帰りなさい。後悔し悲しんでいいのは今日まで。明日からはまた新しい一日が始まります。辛いでしょうが、それが罰だと思って支えあって頑張りなさい」

言葉の裏には励ましが含まれている。それに気付いた2人は長老の優しさに涙し、長老宅を辞した。
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