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第十二章
第629話
しおりを挟む夢の中でおじいちゃんに会ったのは、コルデさん以上にフーリさんへのダメージが大きかったあのプロポーズ公開の翌々日。あのときの話をしたら、みんなが大笑いした。
「そうか、コルデではなくフーリに止められたか」
「せっかく覚えたのに『言っちゃダメ』って」
「よしよし。今度会えたらコルデとフーリの前で披露して揶揄ってやろう」
そう言って頭を撫でるのはコルデさんのお兄さん。おじいちゃんたちを探すために大陸に残ったというダイバたちの伯父だ。コルデさんより……オボロさんに言動が似てる。「伯父さんと呼んで」とは言われなかった。ただ「大きいお兄ちゃんと呼んで」と言われたけど。
そしてフィムのことも忘れずに報告。おじいちゃんがフィムの精神が休んでいないことを教えてくれたため大変なことにはならず。今はリリンの香りで夢も見ないでぐっすり眠って……
「定刻で起きてきます」
そう言ったらおじいちゃんたちが楽しそうに笑う。今日はおばあちゃんも一緒だ。
「私なんて、リリンに寝かされたら数日は起きてこないのに」
「フィムちゃんにとってエミリアちゃんは大事な人なのね。いつもそばにいて守りたいって思っているのよ」
おばあちゃんは人と人とのキズナが分かるそうだ。
「少しだけね。でもフィムちゃんがエミリアちゃんに向ける思いはとても強いものだわ」
それはそうだろう、フィムは妖精たちに守られて生まれてきたのだから。その妖精たちの親玉が私と契約した妖精たちであり、彼らが従うのはピピンとリリン。その上にいるのが私なのだ。妖精たちに向ける親愛と共に私に向ける友愛なのだろう。
「そうねえ……フィムちゃんがエミリアちゃんに向けている感情は家族に向けた愛情ってところかしら?」
「兄弟姉妹に対してに近いかもね」
「近所のお姉さんを慕う気持ちよりは強いわよ」
おばあちゃんたちはそんな話で盛り上がる。まるで孫や曾孫たちの成長を微笑みながら見守る親戚のようだ。
「…………あれ?」
今までだったら、こんな日本で喪った家族や親戚を思い出す状況になったら哀しみが湧きあがってきていたのに。
「私、哀しくない。なんで……? 大切な思い出を忘れちゃったの?」
「それは違うだろう」
混乱してきた私をおじいちゃんがしっかりと抱きしめてくれた。
「やっと悲しみを乗り越えたんだよ。長かったな、『 ─── 』」
いま私の名前を……日本の私の名前を呼んだ?
驚きで顔をあげた私を見ていたのは現実のフィムだった。フィムが起こしてくれたのだろう。いつものように私の頭を撫でていた。
「エミリア、パパたちがおじいちゃんたちのおむかえにいったよ」
「……え⁉︎ おじいちゃんたちと今まで一緒にいたのに。だれもそんな話をしてなかった」
《 エミリア。火龍が強引に連れてきたんだよ 》
「…………なにが起きたの?」
火龍は準備ができたらと言っていた。その予定が急に変わったということは……
「一時的に止んでいた戦争が始まった?」
私の言葉に妖精たちが首を左右に振る。
《 エミリア。『エルスカントの尾根もナナシの封印場所だ』って忘れてない? 》
「…………刻という清らかな川に落っこちた記憶は、流れ流れて遠いお山のその先の、澄んだ青い海のその深~くに沈んだまま……」
《 ……今すぐ釣り上げてらっしゃい 》
はぁーっと深い息を吐き出した火の妖精。その後ろでひらひらと流れるように踊っている妖精たち。「川に流れ流れて」と言ったから川の流れをイメージして揺れているのだろう。
「どんぶらこっこと流れていっちゃった」
《 モモじゃな~い! 》
火の妖精のツッコミの後ろでは《 あ~れぇぇぇぇ 》と言いながらクルクル回っている妖精たち。
「うんとこしょ、どっこいしょ」
《 まだまだカブは抜けません 》
私の言葉に続けて妖精たちが声を揃える。
《 もう! おじいちゃんたちが着くのよ! いい加減に起きなさーい 》
「おっきしてるー」
フィムのツッコミに火の妖精が《 そうね、フィムはいい子ね 》と頭を撫でる。そして私に目を向ける。
《 エミリアもフィムを見習って起きなさい 》
「起きてるよ」
《 意識はね。身体も起こしなさい 》
「起きた、寝た」
身体を起こしてパタンと横になる。
《 んっもう、起きたままでいなさい 》
「エミリア、いっしょにおやつたべよ?」
火の妖精を揶揄っていたらフィムの可愛いお誘いを受けた。もちろん喜んで起きますって。
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