私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十二章

第626話

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「エミリア。話したいことはないか?」

ダイバに聞かれて何も言えなかった。ダイバの周りには両腕を組んで胸を張り、怒った表情の妖精たちがいたからだ。

「……話したいではなくてもいい。聞きたい、一緒に考えたいことはないか?」

今度は妖精たちが両手を腰にあてて胸を張っている。中には両腕を組んだまま右側に頭を傾けて考えごとをしている表情の妖精たちもいる。

「……フィムの前でじーさんが何か言ったんだって?」

ここでようやくダイバが言いたいことに気付いた。

「よくわかんない」
「何が分からない?」
「おじいちゃんが、私を召喚したのは『ナナシに残っていた女神の心』って言ったんだ。じゃあ、いまのナナシはどう思っているんだろう。ナナシに女神の心は残ってないんだろうか。…………ナナシの中の女神は、私に何をさせたくてんだんだろう」

俯いた私の頭にダイバが手を乗せる。

「じーさんに直接聞いてやる」
「直接……? おじいちゃんたち来るの?」
「ああ、火龍の話では災害はウランベシカの王都も壊したようだ。おかげでエルスカントの尾根が手薄になっているらしい」
「チャンスだね」
「じーさんたちはセウルの兄も連れてきたいらしいが……多分賞罰欄に罰が加えられているだろう。その場合はダンジョン都市シティには入れない」

それは正当な理由がないにも関わらず弟妹セウルたちを奴隷商に売ったからだ。セウルたちはすでに奴隷ではない。それを知ったらどう動くかわからない。また奴隷商に売ろうとするかもしれない。洗脳に近い状態のため混乱を引き起こすかもしれない。後悔しているかもしれない。
……善人の皮を被った犯罪者かもしれない

「仕方がない。まず家族に無事な姿を見せてもらう。今後の話はそれからだ」

ダイバのいうとおり、まずは再会が先だ。そして何があったのか、を聞かなくてはならない。

「一緒に考えるぞ。それでも分からなければ……」
「分からなければ?」
「みんなで袋叩きにしよう」

やっぱりダイバも腹を立てていたんだ。そうだよね、ノーマンのことに関しては仕返ししたいもんね。


ナナシが私を真っ先に狙った理由もわからない。
あの夢の中で『もう1人の聖女が生まれ変わった』姿を見た。空魚ルティーヤと妖精たちが生まれ変わったあの子を見つけてくれた。兄たちと草原を駆け巡っている姿を空魚ルティーヤの上から見た私は泣いた。優しそうな家族に囲まれた彼女は楽しそうに笑っていた。

「あの子は無事なのかな」

あの災害で私が真っ先に気になったのはそのこと。隣のミドグリームス大陸に属する島に住んでいる彼女は、町で伸び伸びと育っているはずだ。島といっても直径1キロの小島ではなく、日本のような一国で成り立つ島だ。

「被害がないのはプリクエン大陸。次はミドグリームス大陸。こっちは神の加護が強いからだ。しかし、王都以外の被害はある。まあ、ほかの大陸よりはマシだという程度だな」

各国の情報が手に入るのは庁舎の情報部。そこに顔を出したら、部長自らが「話せる範囲でな」と前置きして教えてくれた。一切教えなければ自分で見にいこうとするとダイバやアゴールから聞いていたようだ。

「ほかの島は?」
「んー、んんん? ……島?」
「そう、大陸じゃなくて島。島だって国はあるでしょ?」
「……そういえば、島で被害が出たという話は届いていないな」
「タムスロン大陸の周辺の島は? 魚人族ハゥフル翼人族テンシの島もあるでしょう?」

魚人族ハゥフルが沈んだタムスロン大陸に助けに行ったことは有名だ。そのおかげで、王都やいくつかの町や村で自然災害から守る魔導具が起動して海の中でも生き残っていることが知らされた。

「真っ先に助けに行けたということは、被害はなかったということか」
「それなら、どうやって大陸が沈んだことを知ったの?」

魚人族ハゥフルの住む島はいくつもあるが、そのどれもがタムスロン大陸から離れている。ここプリクエン大陸の方が近いくらいだ。海流もプリクエン大陸やミドグリームス大陸寄りのため、タムスロン大陸の海流は直接届いていない。
私の疑問に答えられるよう、情報部が島国の情報を集めてくれると約束してくれた。

その間は大人しく待つことになった。おじいちゃんたちがいつくるか分からないため、私もダンジョンに入ったりして会える日を楽しみにしている。
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