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第十一章
第623話
しおりを挟む「エミリア!」
「ちょい待て!」
グイッと両腕をつかまれて止められた。
ここはいまバラクルの店内。ずーるずーるとミリィさんとダイバに引き摺られて運ばれたのは2階にある幼稚園。
「エミリア!」
名前を呼んで飛びついてきたのはフィム。ようやくちゃんと名前が呼べるようになったフィムが可愛くてたまらない。
以前、夢の中に引きこもってひとりで泣いていたところ、後ろから小さな手で抱きしめられた。
「エミリアがないてる。しんぱいナイナイ」
そう言って慰められた。その後も何度かダイバを連れてきていた。ダイバは何も言わず、フィムと私を黙って見守ってくれる。2人は夢の世界から戻るときに「戻っておいで」とも言わず「いつ戻る?」とも聞いてこない。気付いたら泣かなくなり、フィムから「まってるね」と言われたのが夢の世界から戻るきっかけになった。気付いたら目を覚まし、バラクルに顔を出したら捕獲された。
そして今日は……
「おめでとう、4人とも」
セウルとアリアスとキルヒとアリシア。この子たちの借金が完済されて、奴隷から住人になったお祝いだ。
「エミリア様、お世話になりました」
セウルが深々と頭を下げる。セウルの借金が予定より早く完済できたのは、アリアスたちが出した屋台の売り上げが良かったからだ。
「みんなが頑張ったからね。アリシアのジャムの売り上げも大きかったね」
これからは私と契約をしてジャム用の果物を仕入れてジャムづくりをして屋台で販売していく。兄たち3人は冒険者学校に通い、冒険者になって食材をバラクルとミリィさんのお店で買ってもらい、素材になるものは私が購入する。
「バラクルで住めるように配慮していただきありがとうございます」
「4人は犯罪奴隷ではないからね。バラクルで働くこともできるけど、それでは働く身内が増えるだけだからね。世間を知るには外で働く方がいいから」
私の言葉に頷いたセウルがキリッと表情を変えた。
「はい、僕たちは世間を知らないから身内に奴隷にされました。僕たちは子供だから甘やかされて当然だと思っていました。でも、僕たちは売られてバラバラになってもおかしくなかったのに、一緒に引き取ってもらいました。そして……新しい生活を始められることになりました。今度は自分たちで立てるようになります」
セウルの宣言に周囲の大人たちは拍手を贈る。みんな見守っていくと誓い合い、手を出さないと決まっている。
「子供たちの未来は子供たちのもの。大人はそれを支えればいい」
コルデさんの言葉がみんなの心に刺さった。
「だからといって、エミリアが好き勝手に飛び出してナナシ探しに行くのは禁止だ」
こっそり出て行こうとした私はミリィさんとダイバに見つかり、バラクルの幼稚園で子供たちの面倒を見ることに。
「フィム、エミリアがおでかけしないように一緒にいるんだぞ」
「はーい!」
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……魅了の女神から、ナナシの目的を薄ら聞いている。裏付けはまだだけどダイバもその話を知っていて、その仮定をエルスカントの尾根にいるおじいちゃんたちとフィムを通じて夢で会って話し合っているそうだ。
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