私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十一章

第616話

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タグリシア国からきた冒険者たちはベテランのパーティだけで50組、中堅クラスのパーティも30組近くが集まっていた。総勢で700人。彼らはこの大陸にあるほかの国にも分かれて復興に協力するらしい。

「困っていることをまとめて教えてください」
「あっ、地図貸してくださーい」

その中の代表とおぼしき男性が前に出てきた。ギルド長としてファビュアが手を貸して欲しいことを伝えていくと「ほかには?」「これもした方がいいな」などと自分たちで仕事を増やしていく。

「ああ、心配しなくていい。俺たちは大まかにしか手伝わない。本当の復興はそこに住む連中が自分たちでやっていくことだ。『どこまでも手を貸すな。それは甘えに繋がり、自分たちで元の生活に戻ろうとしなくなる』って言われて来た。もいるしな」

そう言った男性はちらりと背後を見遣みやる。ファビュアには冒険者たち以外は何も見えなかった。

何人かは壁の掲示板に依頼書を確認に行き、そこから若い冒険者が手を上げて受付嬢から地図を借りる。さらに多くの冒険者たちが酒場バーのテーブルを借りてくっつけると、大陸の地図を広げて各国の位置などを確認しあって、どこのパーティが向かうかなどと決めていく。外に出ている冒険者たちもパーティ同士で話し合っていたが、わあっ! と騒がしくなり人垣が割れてひとりの人物が現れた。

「みんな、海を渡って来てくれたのか!」
「久しぶりだな、ユージン。リハビリはどうだ?」
「このとおり、松葉杖で支えれば動ける程度まで回復した」
《 ちょっと、みんな! このバカタレを叱ってやって! 無理するなと言っても聞かないんだから! 》
「……と言ってるが?」
「誰が?」
《 だから! 私たちが見えないんだって! だから叱っても無視するの! 》
「ああ、そうか」

そう言った男性が魔導具を取り出して起動する。

「あ、すみません。この中では、って…………えええええええ!!!」
「あ、失礼。説明し忘れてた」

魔導具を起動すると同時に、ユージンの髪を引っ張っていた妖精たちが一斉に視認できたのだ。急に現れた妖精たちにギルドの職員たちが驚きの声をあげる。

《 バカ! ちゃんと説明しないから! 》
「スマン」
《 ダイバに言いつけるから 》
「それは待ってくれ!」
《 だったら働きで見せなさい! 》
「……はい、すみません」

代表とおぼしき男性が小さくなって謝る。しかし妖精たちは許さず、ポカポカと頭を叩く。

《 誰に謝っているの! 》

妖精のその言葉にハッと気付いた男性はカウンターに向かうと「驚かせてしまい申し訳ございませんでした」と頭を下げる。その姿に我に返ったファビュアが頭を上げるように伝える。その視線は彼の横にいる妖精に向いているのは仕方がない。

《 はじめまして、エイドニアの皆さん。私たちはタグリシア国から派遣した冒険者の管理を任されてきました、地の妖精にございます。この者の無礼を伏してお詫びします 》

そう言った妖精は、男性の頭の上でスカートをつまんでキレイなカーテシーを見せる。ほかの妖精たちも同じように空中でマナーに則ったカーテシーで頭を下げる。

「皆さん、頭を上げてください。ただ驚いただけですから」
《 そうはまいりません。私たちは新たな国交を結ぶための代表でもあります。このように自分勝手な行動はタグリシア国の汚名にしかなりません 》

男性は後ろに引いた足のつま先でトントントンと下げた頭部を叩かれている。その表情が少しずつ青ざめていく。

《 申し訳ございません。自ら具体的に謝罪ができぬ愚か者のようです。私どもが身を粉にして働かせますのでお許しいただけますでしょうか 》
「あ、はい。よろしくお願いします」

ファビュアの返事に納得したのか、妖精たちが頭を上げる。
見えない位置で妖精たちに頭蓋骨まで響いたゲンコツを受けたユージンは、カウンターから運ばれたイスに座って同じく青ざめていた。その姿に、ギルドの職員は全員が妖精たちがこの派遣隊のリーダーだと認識するのに十分だった。
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