私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十一章

第615話

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キッカとシルオールは冒険者ギルドから呼び出されて、いま冒険者ギルドの応接室に来ていた。裏ギルド長であるエリーがいない今、冒険者ギルドは表のギルド長の細い両肩りょうけんにかかっている。

「キッカさん、シルオールさん。お忙しい中、お呼び立てしてしまい申し訳ありません」
「いや、ユーリカからギルド長を引き継いだ直後にあの事件だ。まだ混乱が続いているのだろう?」
「…………はい。一度引退した冒険者の皆さんが、復興のために一時的ではありますが復帰してくださいました。ルーフォートやヤスカ村、セイマール地方など被害が出た町や村に分かれてもらいました」
「ほかの国の被害状況はどうだ?」
「……おかしいんです」
「おかしい?」

キッカのおうむ返しに新しいギルド長に就任したファビュアが困った表情で頷く。

冒険者ギルドの副ギルドマスターだったファビュアは、ユーリカが兄たちと共に暮らすため違う大陸プリクエンに旅立つことにした。その国タグリシアの冒険者ギルドに入ることで国境や大陸を越えて関係を強くするためだ。世界の端と端のギルドが結びつきを強くすることは国の発展にもなる。国王同士も仲がいいため、今後の国交を考えてでもある。

「こちらをご覧ください」

差し出された書類に2人は目を通す。そこには各国の被害状況が書かれていた。

「どこの国も王都は無事なのか……」
「そうです。沈んだタムスロン大陸以外で王都が崩壊した国はありません」

まるで国を滅ぼす気はなかったというのか、それ以外に理由があったのか。それは神の加護があったのだろうか。

「プリクエン大陸は無傷なのか」
「はい。ユーリカからの情報では、小さな農村にも被害は一切なかったそうです。冬の間に戦争が終わり、今は後処理の最中だそうです。そしてタグリシア国からは支援として大量の食材が届いています」

ファビュアがなぜ2人を呼んだのか、ようやく合点がいった。復興支援にばかり気がいっていて、食材のために魔物を倒していない。それを放置すれば魔物による集団暴走スタンピードに発展する。

「すまない。復興も大事だが魔物の間引きをしなければいけなかった」
「それだけではない。……昔、エアさんが魔物の棲息を調べてくれたおかげで被害があばけた。あのときから魔物の調査が大事だと思い知ったはずだ」
「そのとおりです。それに気付かず、後手に回ってしまいました。……皆さんのパーティも大きな被害を受けられたのですが…………上級冒険者は皆さんのパーティ以外には、もう……」

申し訳なさそうに俯くファビュア。机の下に隠された両手は震えているのだろう。袖が小さく揺れていた。

「ファビュア、ギルマス。俺たちに命じてくれ、何をしてほしいかを」
「ユーリカたちを無事に送り届けた連中がもうすぐ戻ってくる。タグリシアには冒険者たちの町があり、そこからベテランの冒険者たちがやってくる。ここにきて挨拶するから指示をしてやってくれ」

ファビュアはシルオールの言葉に表情をこわばらせる。異国から渡ってくる冒険者はいくらでもいる。しかし彼らは自由であり、行動に関して指示をだすことはない。

「そんなに固くならなくていい。彼らに魔物討伐か復興のどちらか、魔物の討伐でも依頼にそってもらうのかダンジョンで食材集めを頼むのか。そのダンジョンも王都の周辺か、ルーフォートなど別の場所にあるダンジョンで、そこの町や村で消費されるためのものか」

そう説明されて、やっと理解できたのだろう。ほうっと安心した表情を見せた。
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