私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十一章

第593話

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スッと視線を横に向けると目を背ける妖精たち。今度は左に目を向けると妖精たちがサササッと姿を隠す。
空を見上げると、結界に降り積っては滑り落ちていく雪たち。灰色の雲から白い雪が絶え間なく降り注いでいる。

「エミリアちゃん」

背後から私を抱きしめるミリィさん。私たちは新年を迎える前に共同生活を解消して自宅に帰っている。

「あったかい」

ミリィさんは母親になってから暖かく柔らかい。そして甘い匂いもする。

「エミリアちゃんはずっと外にいたのね。妖精たちが心配するはずだわ、こんなに身体が冷えちゃって」
「はは……ダイバがいないから、頭を冷やすのにちょうどいいかと思って」

妖精たちが心配そうにみていた。でもダイバがダンジョンの間引きでいないから大丈夫だと思っていたのに……ミリィさんが呼ばれたんだ。

「エミリアちゃん、何を考えているの?」
「……怖くて……悪いこと」

サヴァーナは山が崩れて王都は崩壊した。王城が崩れたことで王族は9割強が死に、1割に満たない行方不明者。そして……たったひとり生き残った3歳の王女は王都の生存者たちに惨殺された。元々虫の息だったこともあり、苦しまないようトドメをさしたともいえる。

いずれはあの山も崩れていただろう。エルフたちが集められていたのは、山を中途半端に崩して王城を建てたからだ。砂山で片方だけ穴を掘れば崩れる。それを遅らせるためにエルフが集められて、操り水で操られて山を維持し続けてきた。
あのときの地震は、地下深くで地面を支え続けたハーフエルフたちの魔法が尽きたことで土台が崩れたのが原因だった。ハーフエルフを使い捨てにしてきた王族に報復ができなかったのが……悔しい。

〈あれは仕方がない。放っておいてもここ数年で崩れていたはずだ〉

火龍はすべて見ていたそうだ。妖精たちに捕まっているエルフやハーフエルフたちの保護を願った。そして全員が退避したのを確認して、報復のために残りすべての魔力を放って山を完全に崩して王族のほとんどを道連れにしたのだ。
それによって、王族は罪を償うことができず植物や魔物人でなしの転生のに組み込まれることになった。

「せめて、さ。自分や一族の罪を自覚してから死んでほしかったな」

罪の自覚のない者に「お前は罪を犯した」と言っても理解しないだろう。「そんなことはない!」といえばさらに罪が重くなる。魂の価値は下がり、破落戸ならずものに成り下がり、にまで落ちる。だからこそ、この世界の罰は重く、自分の罪と向き合う時間がもたれる。自己を反省し罪と向き合い償いの日々を送れば、魂は闇に染まることはない。

そう考えると、反省の時間を与えず自らの生命を犠牲にしたハーフエルフの復讐は成功したといえるだろう。いかなる理由があろうとも『罪を償わずに罰を受けずに死んだ逃げた』ことになったのだから。

「復讐に自分の生命を犠牲にしたハーフエルフの魂は……やっぱり闇に落ちたんだよね」

あの……廃国の呪いを生み出した妖精のように。


「エミリアちゃん」
「あのね、いっつもね、どっかでの。取り返しのつかない……大きな間違い」

あの日、私は城を出ることで一緒に召喚されてきたもうひとりの少女が大切にされると信じていた。身分証を用意してもらっているときに、この世界の説明を受けて簡単なことはメモをした。その内容に王都の外の生活も聞いていた。だから、私の捜索で「すでに乗合馬車で王都から出ている可能性が高い」と言われていたのだ。
もっとも、情報不足で宿に泊まって生活に慣れる準備をしていたけど。

そのときの話で、あの王子は承認要求が強いことに気付いた。気の強そうな私ではなく、弱そうな彼女を連れて行ったのはから。真っ先に彼女を押し倒したのは、あの王子にとって愛情とは『それが当然だった』から。
厳格な父は国民を見て、国外を見て。でも家族をかえりみなかった。第二王子が父親にしたのは7歳のとき。

「父上、お初にお目にかかれて嬉しいです」

そう挨拶したレイモンドに父親は言った。「お前はどこの貴族の息子だ?」と。レイモンドはショックだったらしい。そこから承認要求が強くなったらしい。

「当然だろうな。自分の存在を知らなかったんだから」

私の感想に、誰も否定しなかった。存在が認められたからと言ってそこから父子親子関係がよくなるとは限らない。

「王子ならできて当然」

その一言で優劣がつけられる。そしてできないことには必ずこう付け加えられる。

「こんなこともできなくて王子が務まるか!」

古くからいる魔術師いわく「自分だって優秀な弟と比べられて、いつも負けていたくせに」とのことだった。「弟という立場の相手に劣等感を持っている、心が狭く醜い男」(古参の魔術師・談)というのが、城で働く者たちの総合評価だった。
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