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第十一章
第586話
しおりを挟む「おはよう、エミリアちゃん」
「よく寝てたわね」
「疲れすぎよ」
目を覚ますとすぐにミリィさんが気付いて挨拶をしてくれた。それに気付いてシエラとアゴールも挨拶してくれる。…………眠い。
「えにゃ~、おはよ~。……ねむい?」
ベッドにのぼってきたフィムが私の横にきて小さな手で頭を撫でてくれる。挨拶で噛んだのもかわいい。
「ね、む~い」
「寝すぎだからよ」
「……にゃあ」
「ほらほら、丸くなって寝なおそうとしないの」
「ん……にゃあ」
コロンと転がるとシエラの膝がそこにあり、頭を乗せるとそのままシエラの腰に腕を回す。
「おねーちゃーん……だっこ」
「あら、おっきな赤ちゃんね」
「フフフ。赤ちゃんのお兄ちゃんやお姉ちゃんが、赤ちゃんばかりかまうと甘えたくて赤ちゃん返りをするそうよ」
「んんんー。私たちの甘やかしが足りないのね」
「ぼくもあかちゃーん」
「あらあら」
眠くて手当たり次第に甘えていたらもう少し寝ることになった。赤ちゃんのお世話をしている妖精たちが《 大きな赤ちゃん2人の面倒は対象外よ。ママとお姉ちゃんがお世話してあげて 》となったのだ。
私を真ん中に、シエラとミリィさん。フィムをアゴールが抱きしめて寝ていたが、気配に気付いて目を開けると、ダイバがアゴールたちに布団をかけ直していた。私が目を開けたのに気付いたダイバはたてた人差し指を口に持っていくと小さく「おやすみ」と言って出ていった。
うん、ダイバって本当にアゴールを愛しているよね。……オボロさんが死んでから過度になってるけど。
シエラはオボロさんの死が実感できていない。いつものように所属している国に帰ったという事実だけだ。何年か経って、姿を現さない兄を『離れて住んでいる』と勘違いするかもしれない。コルデさんもダイバもそんなシエラの気持ちを最優先するだろう。
フーリさんはオルガさんの死を聞いたときは悲しんで部屋に引きこもったが、営業時間になるとバラクルに降りてきた。
「仕事をしているときは忘れていられる」
そう言って笑うフーリさんは無理して笑っていて痛々しい。でも日を重ねていくと自然な笑顔を見せるようになった。
ミリィさんは私たちより長生きのため『残される側』だ。そのため覚悟はしていたそうだ。
「でも……こんな形で別れが来るなんて思わなかったわ」
深い悲しみで、泣くこともできずにいたミリィさんを大泣きさせたのはシェシェだった。火がついたように大泣きしてミリィさんに抱っこされてもシェシェは泣き止まず。そんなシェシェを抱きしめた温もりと泣き声につられて、ミリィさんの涙がこぼれ出してそのまま感情が溢れ出した。
ミリィさんにしてみれば、仲間たちの死。そして『もうひとりの母』であるエリーさんが、あれほど嫌がっていたアラクネの金糸によって死を免れていた。しかし今はまだ目覚めないため無事だと安心できないでいる。そんな何とも言えない気持ちが整理できず……感情が凍りついていた。
それを滅多に泣かないシェシェの涙が、泣けないミリィさんの代わりに流れ続けた結果……ミリィさんの凍った感情を溶かしたのだった。
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