私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十一章

第581話

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村を襲われ仲間を失い、犯人を王都まで追いかけてきた妖精。仲間の涙の訴えを聞いて、彼らは二手に別れた。被害を受けた村に駆けつけて、妖精のたまごに入って再生を待つ仲間を回収するグループ。そして犯人たちにくっついて逃がさないグループ。
しかし、王都の人たちは妖精を見ることができない。そのため、住人のほとんどが魔導具で妖精と交流できるダンジョン都市シティに向かうことにした。ここで問題が起きた。馬車が出ていないのだ。
それを知って、事情を唯一説明できる自分が行かなきゃ、と王都を飛び出して救いを求めたのだ。

「回収された妖精たちも、いまアッシュの木で回復中。王都の兵士たちには事情を話して救援と復興に向かわせた。犯人の身柄は、おいかりマークを全身に纏いビッカビッカと光らせたルヴィから譲り受けたよ」
「…………あの国王、どこまで怒っているんだよ」
「たしか100回は火龍の火で焼いて、500回は騰蛇が上を転がってプチプチと潰して、キマイラに1,000回は追い回されて頭をパックン咥えてブンブン振り回されて……」
「もういい、もういい」

ダイバが苦笑して私の頭に手を乗せる。シーズルも大きく息を吐き出す。

「あの国王、けっこう腹を立てているんだな」
「そりゃあ、そうだろ。都市ここでエミリアからもらったマナーの本を手に妖精たちから叩き込まれたんだからな。いま受けている自分への評価はすべて妖精たちのおかげだと感謝しているくらいだ」

ルヴィアンカは急いで国王になる必要があった。だからといって礼儀作法を疎かにしていいというものではない。ほかの国との初対面は相手の度胸と度量を測る場でもある。若い王だからと見縊みくびられてたり舐められていいはずがない。だからこそ細かなマナーでもキチンとできることを証明しなくてはならなかった。

「すべて上手くいきました。すべて補佐官の妖精たちのおかげです」

初舞台で緊張して失敗しないよう、妖精たちは見えないのをいいことにルヴィアンカにくっついていたらしい。そして目の前にいるのがどこの国の誰かを教えたり、その場その場でフォローして回っていた。
その感謝から妖精たちの住み良い国づくりを目指している。

「その妖精たちの仲間を殺したんだ。ルヴィアンカが怒らないはずがない」
「ルヴィの希望は連中の転生を断ち切ること。『根の腐れ切った魂なんか何度生まれ変わろうと真面になるもんか!!!』だって」
「……騰蛇はそれを許したんだな」
「妖精たちの悲鳴を騰蛇と神獣たちが聞き取った。しかし、キマイラ以外は世界のことわりに干渉できない。キマイラも単独で動くことはできない。……そこに人間の王ルヴィから『妖精たちを殺した人間に重罰を!』と望まれたから、それに応えた形だね」

ルヴィアンカの前に引き摺り出された犯人たちは口々に「妖精がいたとは知らなかった!」と言い張った。

「妖精がいたなら攻撃しなかった!」
「あんな小さな村なんかに妖精がいるなんて思わなかった!」
「誰も教えてくれなかった」
「「「だから俺たちは悪くない!!!」」」

そこまで黙って聞いていたルヴィアンカは、とてもとってもとぉぉ~っっっても素晴らしい笑顔を彼らに向けた。その笑顔に「ああ、許されたのだな」などと思える者は、笑顔を向けられた張本人くらいだろう。妖精たち譲りの真っ黒な笑顔は、見ている者たちに「コイツら詰んだな」と正確な意思を読み取っていた。

「へええ、知らなければ何をしても許されるんだな。へええ、村の人たちを傷つけて殺したにもかかわらず彼らに謝罪もないのか。まさか深夜で明かりがついていないから建物を崩しても中に人々が住んでいるとは知らず、田畑にある収穫前の農作物は放置されて勝手に育ったもので、鈴生すずなりの果実もすべて奪ったあと、田畑も果樹も焼き消していい。……貴様らは国王である私にそう主張する開きなおるのだな」

ルヴィアンカのいかりに犯人たちは青ざめた。しかし、彼らはさらなる恐怖を味わうこととなる。
ルヴィアンカが私に向かって「お願いします」と言った。それに頷いた私がしたのは同調術をかけること。

「「「ヒエエエエエエエ……」」」

数千にもおよぶ妖精たちが自分たちを取り囲み、遠慮なくいかりの感情を隠そうとしていない。

《 よくも仲間たちを殺したな! 》
《 知らなかったら何してもいいんだって? 》
《 自分で作り出すことも生み出すことも出来ない無能の分際で 》
《 人の作り出したものを生み出したものを奪うしか出来ないクズの分際で 》
《 それだけではなく……長い時間をかけて育てた田畑を果樹を自分たちの犯行を隠すため、それだけのために火をかけた。ねえ、焼かれた植物にも生命はあるんだよ。生きたまま焼かれるってどんなに辛いかわかる? ……ここではやらない。でも、やってはいけないことをして人まで殺して。反省できない者は……彼らが罰を与えてくれる 》

妖精たちの視線の先……空を見上げて白目をむいて引っくり返った。そこにはキマイラとジズたち三神獣が目を弓のように細めて笑っていた。
いまは騰蛇に飲み込まれて転生のから外されて、騰蛇や神獣たちが管理している廃国にいるだろう。


「しかし……そんなに収穫祭とやらは大事なのか?」
「エミリアの世界では、収穫祭とは生産者たちが収穫というゴールを無事に迎えたことによる互いのねぎらいと、大地の神に感謝する祭りだ」
「…………なんでそれを生産者でもないファウシスが祭りをするんだ? 祭りを開いて生産者たちを招いてねぎらっているのか?」
「ざ~んねん。違うんだな、それが」

……正確には周囲の村々からその秋に収穫した穀物や野菜などを持ち寄って一斉に売る日である。品質の良い農産物を1割2割高く売ったり、豊作のときは逆に1割2割安く販売される。この日の販売の手応えでその年の販売額が決まる。日持ちのしない果実などは短期間で集中して販売されることもあり、根こそぎ購入しようとする者もいる。

「なんだ、それ? 買い叩きもあるだろ」
「妖精たちの話では、国が定めた適正価格を大きく下回った値段で買い叩かれていたらしいよ。それが当然になってたみたい。ルヴィが来年から王都の役人と妖精たちを派遣して厳重管理するって」

収穫感謝祭はよそと同じく、村の収穫祭お祭りに戻るだろう。

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