私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十一章

第579話

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エリーさんたちがダンジョン都市シティを離れて半月、ウルクレア大陸に住んでいたハルーファスとロッテ、ルグレインがタグリシア国の王都に到着したという報告が職人ギルドを通してバラクルに届いた。

「直行の乗合馬車で来るそうです」
「4日後の月曜日発、木曜日着だっけ」
「ええ、王都は祭りの最中ですから。すでに予約で埋まっていたようです」

ヘインジルがバラクルにくるついでがあったため、動向を伝えにきてくれたらしい。

「職人の移動に報告がいるんだね」
「職人が国外へ出るのは、一時的に素材を求めてという理由もある。しかし、貴族や商人に不当な扱われ方をして逃げ出す職人もいるのは事実だ。今回のように事情を考慮した移動の場合、引っ越し先のギルドに」
「あれ? 引っ越してくるの?」
「ええ、家族単位での移住申請が出ています。すでにこちらの空き家に3世帯が共同で住む予定になっています」

魔導具職人を続けるため工房付きの家を借りたそうだ。誰かに師事する予定のため、職人たちが居住する地区の居住を望んだ。今までもそうして生活してきたらしい。

「隣町に引っ越した理由は?」
「ああ、工房付きの家が空いたかららしい」
「そこにほかの2人が共同生活しなかった理由は?」
「ハルーファスが新婚で、邪魔したくなかったらしい」
「村に残っていた2人は?」
「女性のひとり暮らしは物騒だから一緒に住んでいたらしい。今でも独身だ」

それはそれは。独身男性の多いここにきて……

「あ、大丈夫か。ダイバの姉とイトコだ」
「そうそう。下手に手を出せば、ダイバやシーズル。そしてアゴールに叩きのめされる」
「私たちも加わろ~♪」
《 楽しみだねぇー 》
「エミリアはダメだろ」

楽しみにしていたら、サクッとダイバにアウトをくらった。

「ええ⁉︎ なんで‼︎ ダイバのお姉ちゃんなら義理だけど私のお姉ちゃんだよ?」

それでも私が手を出すのはダメらしい。実の兄弟姉妹や配偶者でなければ暴行罪になりかねないらしい。

「せめて2年は一緒に暮らさないとな」
「…………楽しみにしてたのに。ふう~んっだ、ふぅぅぅぅ~んっだ」
「楽しみにするな! って、俺で遊ぶなっ!」

拗ねてダイバを挟んだ隣に座るシーズルの後ろに回り、少し長めの髪を細かく編み込む。口だけだして実力行使しないのは、以前止めようとして暴れた結果、《 エミリアの楽しみの邪魔をした 》と怒った妖精たちに髪の色をカラフルにされて恥をかいたからだ。虹のように縦や横に色分けされたり、頭頂部から外に向けて円に色付けされたり。

「頭だけ? ほかのところは? 例えば……ムゴムゴ」
「エミリア、ちょっと黙ろうな?」

後ろからダイバに口を塞がれる。私が下手に口を挟むと妖精たちの被害がダイバに降りかかるからだ。妖精たちのターゲットがシーズルに向いているなら、そのままシーズルが被害を受けてで遊んでいてほしいのだ。

《 胸毛も脇毛も、ほら、まつ毛も眉毛も。よく見るとおヒゲもカラフル~ 》
《 明日は赤色にしようね、下の…… 》
「こらあ!」
「……すね毛は紫にしてあげましょう。どうしました、シーズル? そんなに顔を赤らめて」
「爪も~かわいいピンクに~塗られたあい?」

…………翌日、シーズルの頭は真っ赤っか。すね毛はド紫で、両手足の爪は可愛らしいピンク色に塗られていまに至る。
今日の髪は緑色で、私が編み込んだ髪の先端に妖精たちが小さなリボンをつけたため、蝶々のように揺れている。そして手足のマニキュアは、濃紺に銀色のパウダーで夜空バージョンだ。


《 仕方がないなあ。私たちが…………ふふふ 》
「そうね、私たちが……ウフフ」
《 出来るだけエミリアが楽しめるように目の前で……ウへへへ 》
《 あっ! いらなくなったら腐葉土プールにちょうだい 》
「もちろんです。しっかり塩と毒を抜いてから渡します」

ピピンが高濃度塩水プールに漬けてから渡す約束をしている。いまバラクルはお昼の営業中ランチタイム。そう、お客さんがたくさん入っているのだ。そこでピピンの言葉を聞いた人たちが「こりゃ、やべえ」と呟いていたところを見ると、放っといても噂は広がるだろう。
妖精たちとリリンが楽しそうに顔を見合わせて微笑みあっている。男たちもリリンの妖艶な笑顔が文字どおり危険を含んでいると知っていて、リリンには無邪気な笑顔のときしか声をかけない。ただし挨拶などで、けっしてピピンの逆鱗に触れるようなことはしない。
ここの管理者は騰蛇だが裏の支配者はピピンだと、ダンジョン都市シティの8割を超える住人たちは誰かの犠牲自滅による報復によって十分理解している。


「問題は、城門の魔導具に『お前ダメ。ポイッ』ってされる可能性があるんだよね。ここは王都より厳しいから」

そう、王都は前科があっても軽微だったら入れるが、都市ここは軽微であっても前科があればアウトだ。

「そのときは外周部で再会するさ」
「もしくは騰蛇にパックンちょ、地下の世界へいらっしゃ~い♪」
「ああ、それでもいいな」
「悪いことしている人だったら、パックンしてプリッ」
「…………それは再会後まで待ってほしいな」

コルデさんの願いに騰蛇が小さく揺れて了承してくれた。
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