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第十一章
第574話
しおりを挟む「エミリア。今度ウチと取り引きしてくれないか?」
ルーバーが小麦粉の出荷依頼をしてきた。いままでは外部の農家から購入していたらしい。しかし、子供が産まれたことで「より安全な物を食べさせたい」と思ったそうだ。たしかに製粉した袋に虫が混入していることはある。
「エミリアの農園なら間違いがない。妖精たちも誰かが口にするものにイタズラはしない。それも、子どもたちが口にするかもしれない物だ。子どもたちを大切に思ってくれる妖精たちが、異物の混入を見落とすとは思えない」
ルーバーが双子に会いに来たときに私に契約を願い出てきた。妖精たちは胸を張って自慢できる物を作っている。それを認められたことに妖精たちは浮かれず、表情を固くして私の前に一列で正座をして並んだ。
《 配達は? 》
私の農園を管理している経理部の妖精たちがソロバンを片手に単価や配送料を注文票に書き込んでいく。必要なことは書かれているため、妖精たちは空欄に数量などを書き込んでいく。
《 よし、できた。エミリア、最終チェックをお願い 》
注文票にはルーバーが希望したとおり、『配送:週1回、厨房の決められた場所にひとつ。残りは倉庫の前に置くこと。小麦粉30キロ3袋。追加注文あり』と追記に書かれていた。チェック後にルーバーに見せて確認をとる。
「この追加発注に根菜は可能か? ネギやフルーツガーリックなど」
《 これは定期購入分だ。それ以外の注文は注文書に書いて店内に設置するポストに入れてくれればいい 》
そのポストは中に手紙が入れば左右の旗が上がるようになっている。庁舎で手紙や書類を配達していた妖精たちが、日本の郵便制度を知って都市に『妖精の郵便屋さん』を開設したのだ。ポストの表から郵便物を入れると向かって左側の白い旗が立ち、店や家から運んでもらいたい郵便物を入れると反対側の緑色の旗が上がる。中の郵便物がなくなると、立っていた旗がおろされる。
「重さで上がるようになってるの?」
《 ううん、それじゃあ手紙一枚では動かないよ 》
実はフタに秘密があった。妖精たちはフタを上のフックを外して開く。そして中まで入って郵便カバンに入れたり出したりしている。郵便カバンは収納カバンのミニチュア版だ。2人1組の郵便屋さんで、カバンは配達用と回収用になっていて、1人ずつがどちらかを斜めがけにかけている。そのカバンを中で開けば収納カバン同様出し入れができる。そのときに起きる小さな風の属性が配達用と回収用では違っている。その属性が反応して旗を上げ下げしているそうだ。
回収した郵便物は庁舎にある郵便屋さん本部に集められて配送地区に分けられる。差出人に料金が発生するが、店舗の場合は定額で契約している。1通10ジル。急ぎの配達は1通50ジル。
「お弁当を忘れたの。お昼までに届けて」
「あの人にケーキを届けて」
などというもの。中には「ダンジョンに忘れて行ったの!」というものもある。プレゼントで贈ればいいと思うが、なぜか「届いていたなんて知らなかった」という人が多いのがこの世界の人たち。日本で「メールが届いていたのに気付かなかった」という状況ににている。日本では「メール送りました。確認をお願いします」という電話をかけるという二度手間が発生していたっけ。
ちなみにダンジョンに届ける際の配達料は100ジル。無料ダンジョンなら誰でも入れるが、有料ダンジョンに入れるのが地の妖精のみだからだ。
そして店舗の場合、通常も急ぎも一律で500ジル。ただし、ダンジョンへの特別便は別途80ジルの追加徴収がある。
《 配送は受注後、僕たちに連絡が来てからになる。急ぎに対応できるかは不明。ネギなどの野菜は抜いてから運ぶから。どうしてもというときはポストの上に注文書を乗せれば、気付いた仲間が持ってきてくれる。でも、そんな在庫管理もできないなら店を畳んだほうがいいよ 》
妖精の言葉にルーバーは神妙な面持ちで上下に頭を振った。
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