私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十一章

第570話

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「今すぐ戻ってこい!」

ユーグレアで連日魔物討伐とダンジョン踏破を続けていた私たちに、ダイバの通話経由でシーズルがそう言って返事も聞かずに切った。

「もうすぐ冬だから?」
「さあ、わからん。それだけ言って切った」

たしかに地上を荷馬車で揺られて帰る場合、いまから帰れば冬の訪れの前には到着する。しかし、冬眠に入る魔物が凶暴化するため移動は危険だ。雪の中を移動するよりはマシだけど……

《 みんな、いなくなっちゃうの? 》
《 うーん、私たちはダンジョン都市シティ所属だし 》
《 みんなも勉強のためにおいでよ。ひと冬の間、どんな風に都市が機能するか知った方が働きやすいよ 》
《 ダイバ、いいかな? 》
「ああ、ダンジョン都市シティは冒険者のために発展した都市まちだ。この廃都も来年以降から冒険者たちと商人の都市まちとして生まれ変わる。そんな中で妖精たちがどう共存していけばいいのかを知るのにいいだろう」

妖精たちも一緒か。……火の妖精たちもいるため冬に雪をとかして進むか、水の妖精が馬車の下に氷を張って風の妖精たちが追い風で馬車を進める方法もある。ルブランの妖精は風と水の属性。そのため、ルブランが魔法を安定させながら風と水の魔導具も使用しつつ、その方法で海を渡って追っ手から逃げ切った。

「ここの守備は?」
「ああ、今度は別の町からくる。たしか明日には到着して引き継ぎがある」
「ねえ、騰蛇」

私が下を向いて騰蛇に呼びかけると小さく揺れた。

「私たちとダイバの部下たち連れて、ダンジョン都市シティに連れて帰ってくれる?」

小さく揺れて了承してくれる。地中へはアラクネの金糸で下ろしてくれる。そして繭状を維持したままダンジョン都市シティの城門前まで送ってくれる。中まで送らないのは、城門で鑑定石のチェックを受けるルールを理解しているからだ。

「出るときはスルーなのにね」
「まあな、管理者の騰蛇が率先してルールを破っていたら秩序は保てないだろ」
《 もう。2人とも、聞くことあるでしょ。騰蛇ー、馬車が1台あるけど一緒に持って行けるー? 》

光の妖精アイちゃんが下を向いて確認すると小さな揺れで返事がきた。

《 じゃあ、邪魔にならないように馬車にはいっていこうね 》
《 慣れたら大丈夫だけど、地上と地下の移動って不思議な感覚なんだよね 》
《 フワッてなるの 》

妖精たちはアラクネの金糸で上下する際に不思議な感覚を経験する。この世界にはエレベーターがないため、ダイバたちも最初は慣れなかった。

「エミリアは平気か?」
「うん、エレベーターで慣れてる」
「あら? エミリア以外はダメなの?」
《 なんかヘンー 》
《 エミリア、どうしよう。気持ち悪い…… 》
「乗り物酔いだね。ああ、みんなもだね、じゃあ『状態回復』……どう? 大丈夫?」

範囲魔法で回復させると、真っ白だった妖精たちの顔色に赤みがさした。重力を操る暗の妖精クラちゃんも初めての経験だったことで青くなっていた。

《 グッて押し潰されそうになった…… 》
「それは重力の問題だと思う」
「そう……ごめんなさい、今度から気をつけるわ……ダイバ以外だけ」
「オレをはぶくな」

そんなことがあったため、ユーグレアの妖精たちを心配して馬車ごと持って行こうと考えたようだ。馬車の中で風とくらやみの空間魔法かくらやみの重力魔法でみんなを守ろうというのだろう。
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