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第十一章
第568話
しおりを挟む「今後も女神様に仕えるか棄教するか。……いや、生と死どちらを選ぶか」
時間を与えよう、よく考えるのだな。そう言われた捕虜たち、特に将校たちは、早くから決心していた。流民の末期を知らない兵士たちに話す、と。
「その話を聞いてから決めればいい」
ダイバにこの話をしてもいいのか聞いてきたひとりの将校にダイバは「真実を伝えればいい」と言った。
そしていま、私とダイバは残って将校の話を聞いている。
「流民のうち、旧シメオン国以外の流民が死兵にされてきた」
まず、彼らは一杯の水を与えられる。それは何故か旧シメオン国の流民の血を引く者を選り分ける。そして死兵にされずにすんだ者には農地が与えられた。
「エミリア、どういうことだ?」
将校たちの話を聞いていたらダイバが小声で聞いてきた。
「簡単だよ、あの女神がこの世に生み出した花を使ったんだから。自分を棄教しなかったことで神から流民に落とされた旧シメオン国の国民たちを、ゆがんだ形でも愛している。だからこそ、彼らの子孫を死兵にすることを避けたんだ」
まだ愛される女神だった頃にこぼした涙から生まれた花。貴重なその花はいま、簡単に手に入らない。種に戻って眠っているのだから……精霊王の庇護下で。
そう、この世界で唯一の花マーシェリ。彼女が、その花だ。女神の優しい心から生まれた彼女は……闇に沈んでいた。闇堕ちしたのはマーシェリが先か、女神が先か。
ザワッと騒めきが起きた。
操られた流民たちは自ら、もしくは愛する恋人や家族、親が子が……笑いながら互いを刺し合った。そして、事切れた彼らの前にフードを被った魔術師たちが立ち、呪文をかけて再生させる。……死兵の誕生だ。
しかし、実際には適当にモゴモゴと口を動かして呪文をかけているように見せていただけらしい。死兵を作り出すというパフォーマンスを国王の前で行うことで自分たちの立場を確保した。丁重に扱われ、傅かれる生活を楽しんできたらしい。
「水は2回飲ませていた。その中に自分たちの血を一滴入れた。そして10分以内に殺せば再生する。しかし人間たちに精霊の血は強すぎる。そのため不完全な再生しかできない」
精霊はそう証言した。証言をしている間はピピンによる封印経由の死と再生の罰が停止される。また、ピピンの自供剤は私がつくるそれより強力で、『真実以外無駄話もできない』というもの。守備隊、警備隊の自供に私が立ち会うことを良しとしないピピンが作ったものだ。自供剤の効果が切れた直後にベラベラと自供したことで自己嫌悪や後悔で落ち込むそうだ。
「自業自得です。罪を犯さなければ問題なかったのですから」
そして芋づる式に仲間たちが捕まり、仲間たちも同じ『自白発 自己嫌悪経由 芋づる式逮捕行き』の坂道を、ゆっくりではなく転がるように、人によってはソリに乗って滑り落ちていく。
ゴムを腰につけてバンジージャンプした男がゴムを麻縄に、腰から首につける場所を変えて、たくさんの人の前で床板を外す死へのバンジージャンプをさせられた男もいる。生前たくさんの人々を惑わせた男は、死後にはたくさんの魔物が求婚に駆け寄り、ダイバたち討伐隊が無口になった本人の代わりに『求婚お断り』を実行した。
中には「雑魚も~らい!」と騰蛇の引き抜きにあい、『ぱっくん発 プリッと経由 ダンジョンボス就任』の道を辿る者もいる。
《 んもーう、騰蛇ったらー。専用の生け簀を作ったでしょう? 》
《 えー、もう少ないの? 根性が足りなくて雑魚は雑魚の魔物しかならない? 》
《 シーズル、エミリアが集めた捕虜から将校たちあげてもいいー? 》
「ダメに決まっているだろう」
《 エミリアが倒したことにして…… 》
「それでしたら、戦争が終わったら処刑の代わりに騰蛇様へ献上致しましょう」
国王ルヴィアンカの提案にシーズルは頭を抱え、ダイバは呆れ、妖精たちは両手を挙げて喜んだ。
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