私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十一章

第558話

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ダンジョン名『Snow Rain』。7階層で……

「……なんだこりゃ」
《 どうしたの? 》
《 このダンジョン、問題あり? 》
「エミリア、どうした? このダンジョンは危険なのか?」
「エミリア、止めてもいいんだぞ」

ダンジョン前までついてきたダイバとシーズルが心配の声をあげる。

「あー、ダイジョブ、ダイジョブ。このダンジョンがちょっと……名前が、ね」
《 名前? 》
「うん、という意味で使いたいんだろうけど、『sleet スリート』が一般的かな。 SnowRainを使うなら『Rain and  Snow mixed』か『Rain  Snow mix』…………って」
《 あれ? 》
《 なんか違う 》

ステータスを開いた状態でみんなにダンジョンの説明をしていたところ、ダンジョン名が『Rain Snow mix』に変わった。

「……騰蛇?」

私の呼びかけに小さく足下が揺れる。

「ダンジョン名、変えた?」

また小さく揺れる。これは騰蛇の肯定を意味する。

《 うーん……あっ、そうなんだ。うん、エミリアに伝えるよ 》

座って地面に手をあてて目を閉じていた地の妖精ちぃちゃんが目を開けると、私に飛んできて止まった。それに気付いた水の妖精みぃちゃんが近寄って浄化で手足についた汚れを落とす。

《 ありがとう 》
《 ううん、お互い様だよ。それで騰蛇はなんて? 》
《 あ、エミリア。この地域にあるダンジョンや迷宮は、まだ神がいた頃に出来たんだって。でも、ずっと放置されてきたから……ジャマ! っで、中はけっこう傷んでいるから注意してって 》

私に報告しながら、ダンジョンから出てきたコウモリの魔物に葉っぱのカッターで首をカットした。超音波が気に障ったのだろう。

《 大丈夫、大丈夫。ダンジョンを強化しつつ入ろうねー 》
《 はーい、僕たちも一緒に行くー 》
《 はーい、私たちもついてくよー 》

ここユーグリアの領地に昔から棲む地の妖精をはじめとした妖精たちは、ダンジョンの直し方を覚えるために一緒に行くという。

「お前たちはあとから俺たちと行こう」
「そうだな。エミリアたちは討伐をメインにしている。中に設置された魔導具は停止しているだろう。それらの交換で俺たちがあとから入る。そのときに強化してもらいたい場所などがあったら頼みたい」
《 僕たちだけでは無理だよ 》
《 やったことがないもん 》

はじめてだから一緒に行きたいという。どうしたらいいのか、見本を見せてほしいのだろう。……これが討伐でなければ、妖精たちを引き連れて入ってもよかった。しかし、中の地図は失われていたり、放置されたことで長い時間をかけて魔物の巣となり、地図が役にたたない可能性もある。

ここは地図も魔物のデータも揃っているダンジョン……古くは迷宮だったらしいが、魔物が壁を壊したりして洞窟化している可能性もある。どんな魔物が棲息しているかも分からない。さっき現れたコウモリの魔物、あれは本来いないはずだった。

「まあ、ここは薄暗い森の中。コウモリが棲みついてもおかしくはないな」
「当分は魔物が混在したダンジョンになるだろう。そのための討伐を目的としたダンジョン踏破だ」

出来るだけマッピングをしてくる予定だった。しかし、それでは時間がかかるため、目的メインは魔物の掃討。入り口に結界石を2個設置して、魔物の侵入を阻止。そして私が出てきたら、今度はシーズルの要請で到着したダンジョン管理部の出張職員たちがマッピングに入る。人海戦術と魔物がいないため、私たちがマッピングするよりも早い。とはいえ、私の中途半端なマッピングも報酬が支払われる。それを元に完成するからだ。

《 あとから一緒に行こうよ。やったことがないなら、どこをどう直したらいいのか。どこをどう補強したらいいのかを教えてあげる 》
《 うん、私たちはみんなの邪魔をしにきたんじゃない。だから、空いた時間に教えて 》

妖精たちも、ダンジョンを発見しては魔物の掃討に入る私たちが何日も戻らないことを知っている。隠れてついてきた妖精が魔物に追われて、私たちが助けたことがある。ただ、その騒ぎで魔物たちが集まってきた。

《 ごめんなさい、ごめんなさい 》

泣いて謝る妖精たち。魔物たちは波のように次から次にやってきて、1階はマッピングもろくに出来なかった。仕方がない、1階は肉食系の魔物が占拠していたからだ。魔物は戦い合ってもその魔肉を食べられるわけではない。より強い魔物に奪われるからだ。だからこそ……集まってきたのだ。

地の妖精ちぃちゃん、ダイバたちのところまでお願い」
《 わかった。みんな、送っていくよ 》
《 ごめんなさい 》
「お説教は帰ってからね」

結界石を設置しているため、ダンジョンを出入りできるのは地の妖精のみ。私と共に過ごした年月が、地の妖精ちぃちゃんをはじめとした契約している妖精たちを確実に成長した。妖精の生まれ持つ妖力チカラは、成長と共に属性にあった使い方を覚えていく。目に見えて成長しているのは暗の妖精クラちゃんだ。重力の扱いが上手になった……まだ感情で重力を使ってしまい、相手を押し潰してしまう。今はまだ魔物相手のため問題になっていないが、ダイバも注視している。

廃都から近かったことで、地の妖精ちぃちゃんは4時間後に戻ってきた。

《 ダイバにちゃんと説明してきたよ 》

魔物に追われたことで恐怖からトラウマになっているだろう。だからダイバのところまで連れて行ってもらったのだ。それを理解した地の妖精ちぃちゃんが、ダイバに説明もしてきてくれた。

そのときの子たちは、いまも廃都から出られない。それでも、木々の伐採が進んだら少しずつ外へ出られるだろう。
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