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第十章
第554話
しおりを挟むミュレイのいる商業施設へ向かった私たちは地下へと案内された。地下といっても暗いわけではない。地下にも飲食店の店舗はある。日本のような地下街なのだ。そしてここは魔物が城壁を破ったときに逃げ込める避難所にもなっている。地下の店舗はそのまま食材倉庫なのだ。
「これで逃げる意味がない」
「ああ、ここが領都だった頃にはすでにこの地下はあったらしい」
やはり、ここを廃都にする理由はない。仮定はシーズル経由で王都に報告済みだ。すでに調査は始まっている。
「この地下三階に地下牢があります。そこを療養施設に作り替えて、治療を受けた冒険者たちを休ませています」
ミュレイが地下二階に続く階段を降りながら説明をしてくれる。治療はシーズルたちの隊が連れてきた治療師が請け負った。しかし、かなりの冒険者たちがピピンたちに救われており、五人の治療師では足りなかった。
「妖精たちやリリンさんが治療を手伝ってくださいました。ピピンさんも、いやしの水を出してくださって。お陰で重傷者も中等度まで回復しました」
「完全回復はさせなくていいんだよね?」
「もちろんです。死ななかっただけマシだと思ってほしいですね」
彼らはパーティーの仲間が死んでいる可能性が高い。そんな中でも生き残った以上は、手足を失ってでも生きていかなくてはならない。ピピンが出したいやしの水には睡眠薬が含まれているらしい。
「仲間の死、自身の失われた手足。それを知れば、彼らの中には自らの手で死を選ぶ可能性があります」
仲間を失った直後は、悲しみや苦しみから治療を拒否されることもあるらしい。せめて治療が終わるまでは眠っていてもらいたいそうだ。
「長くかかるんじゃないの?」
「ええ。ですから眠ったまま外周部の治療院に運ぼうと思っています」
眠ったままの人は城門の中に運べない。この廃都は魔物よけの魔導具しか設置していない。だから連れて入れたのだ。
「どうやって運んだの?」
「風船に入れて浮かべてきました」
その風船も、暗の妖精が空間魔法で内部を広げて全員を一度に運んできたらしい。
「獣人と魔人を襲ったんだから、罰といえば罰になるのかな?」
「どうでしょうね。まあ、治療が終わって目覚めたらわかるでしょう」
「その獣人や魔人に生命を救われたと知ったら……」
「自業自得でいいんじゃないですか」
この世界はけっこう淡白な性格の人が多い。ミュレイのような考え方は普通であって、『行動による結果は自業自得であって罰は当然』らしい。ダイバは私の元の世界を知って違う考え方をする私を受け入れ、この世界の常識を教えてくれた。
「この世界は神が転生を司る。重ねた罪を今生で償わないと、次から魔物の転生の環に組み込まれてしまう」
「じゃあ、償いきれずに死を迎えたら?」
「大抵は償うまで死ねないな。そして植物……樹木はともかく、採取される薬草や収穫される食料になると言われてきた。実際に隣国がそうだろう? 人として死ねず、いまは植物になった。しかし植物循環で根っこが残ればそこから成長するし、朽ちても若木を生やして死ぬことは叶わない」
「別の種族に生まれ変わる?」
「ああ、エミリアは次に生まれるときは人間以外かもな」
《 大丈夫。私たちはエミリアがどんな種族に生まれ変わってもわかるから 》
《そうそう。霊でわかるから、どんな種族になっても友だちになりにいくよ 》
「次も聖魔師?」
《 農民でもいいよ。友だちは種族も越えるんでしょ。私たちが一緒に畑を耕してあげる 》
《 ピピンたちは進化したから、次はエミリアの家族かな 》
《 賑やかな兄弟姉妹だよねー 》
《 今度はダイバも本当のお兄ちゃんになるかもね 》
《 『夢の郷』に生まれるかもね 》
「夢の郷? なに、それ?」
《 強い絆で結ばれた人たちが、前の記憶を持ったまま生まれ変われる場所。その記憶は霊に刻まれて、何度生まれ変わっても記憶がなくても関係は変わらないって言われているよ 》
「エミリア。そこでみんなと楽しく生きような」
「……みんな、一緒だからね」
ダイバが笑いながら私の頭を撫でる。たとえ罰を受けるようなことをしでかしても、次も一緒に生きたい。
私、アウミの中にいる元・女神をぶっ飛ばすつもりだもん。生まれ変わってもみんなと一緒にいたいから、どんなに重い罰を受けても償いきる!
……私はそう心に誓っていたんだ。
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