私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

文字の大きさ
上 下
541 / 789
第十章

第554話

しおりを挟む

ミュレイのいる商業施設へ向かった私たちは地下へと案内された。地下といっても暗いわけではない。地下にも飲食店の店舗はある。日本のような地下街なのだ。そしてここは魔物が城壁を破ったときに逃げ込める避難所シェルターにもなっている。地下の店舗はそのまま食材倉庫なのだ。

「これで逃げる意味がない」
「ああ、ここが領都だった頃にはすでにこの地下はあったらしい」

やはり、ここを廃都にする理由はない。仮定はシーズル経由で王都に報告済みだ。すでに調査は始まっている。

「この地下三階に地下牢があります。そこを療養施設に作り替えて、治療を受けた冒険者たちを休ませています」

ミュレイが地下二階に続く階段を降りながら説明をしてくれる。治療はシーズルたちの隊が連れてきた治療師が請け負った。しかし、かなりの冒険者たちがピピンたちに救われており、五人の治療師では足りなかった。

「妖精たちやリリンさんが治療を手伝ってくださいました。ピピンさんも、いやしの水を出してくださって。お陰で重傷者も中等度まで回復しました」
「完全回復はさせなくていいんだよね?」
「もちろんです。死ななかっただけマシだと思ってほしいですね」

彼らはパーティーの仲間が死んでいる可能性が高い。そんな中でも生き残った以上は、手足を失ってでも生きていかなくてはならない。ピピンが出したいやしの水には睡眠薬が含まれているらしい。

「仲間の死、自身の失われた手足。それを知れば、彼らの中には自らの手で死を選ぶ可能性があります」

仲間を失った直後は、悲しみや苦しみから治療を拒否されることもあるらしい。せめて治療が終わるまでは眠っていてもらいたいそうだ。

「長くかかるんじゃないの?」
「ええ。ですから眠ったまま外周部の治療院に運ぼうと思っています」

眠ったままの人は城門の中に運べない。この廃都は魔物よけの魔導具しか設置していない。だから連れて入れたのだ。

「どうやって運んだの?」
「風船に入れて浮かべてきました」

その風船も、暗の妖精クラちゃんが空間魔法で内部を広げて全員を一度に運んできたらしい。

「獣人と魔人を襲ったんだから、罰といえば罰になるのかな?」
「どうでしょうね。まあ、治療が終わって目覚めたらわかるでしょう」
「その獣人や魔人に生命を救われたと知ったら……」
「自業自得でいいんじゃないですか」

この世界はけっこう淡白な性格の人が多い。ミュレイのような考え方は普通であって、『行動による結果は自業自得であって罰は当然』らしい。ダイバは私の元の世界を知って違う考え方をする私を受け入れ、この世界の常識を教えてくれた。

「この世界は神が転生をつかさどる。重ねた罪を今生こんじょうで償わないと、次から魔物の転生のに組み込まれてしまう」
「じゃあ、償いきれずに死を迎えたら?」
「大抵は償うまで死ねないな。そして植物……樹木はともかく、採取される薬草や収穫される食料になると言われてきた。実際に隣国がそうだろう? 人として死ねず、いまは植物になった。しかし植物循環で根っこが残ればそこから成長するし、朽ちても若木を生やして死ぬことは叶わない」
「別の種族に生まれ変わる?」
「ああ、エミリアは次に生まれるときは人間以外かもな」
《 大丈夫。私たちはエミリアがどんな種族に生まれ変わってもわかるから 》
《そうそう。たましいでわかるから、どんな種族になっても友だちになりにいくよ 》
「次も聖魔師テイマー?」
《 農民でもいいよ。友だちは種族も越えるんでしょ。私たちが一緒に畑を耕してあげる 》
《 ピピンたちは進化したから、次はエミリアの家族かな 》
《 賑やかな兄弟姉妹だよねー 》
《 今度はダイバも本当のお兄ちゃんになるかもね 》
《 『夢のさと』に生まれるかもね 》
「夢のさと? なに、それ?」
《 強い絆で結ばれた人たちが、前の記憶を持ったまま生まれ変われる場所。その記憶はたましいに刻まれて、何度生まれ変わっても記憶がなくても関係は変わらないって言われているよ 》
「エミリア。そこでみんなと楽しく生きような」
「……みんな、一緒だからね」

ダイバが笑いながら私の頭を撫でる。たとえ罰を受けるようなことをしでかしても、次も一緒に生きたい。
私、アウミの中にいる元・女神をぶっ飛ばすつもりだもん。生まれ変わってもみんなと一緒にいたいから、どんなに重い罰を受けても償いきる!

……私はそう心に誓っていたんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。