私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

文字の大きさ
上 下
540 / 789
第十章

第553話

しおりを挟む

《 ただいまー 》
《 魔物、いっぱい倒してきたよー 》
《 冒険者も、いっぱい倒してきたよー 》
「なにをしたぁぁ!!!」

妖精たちが帰って笑顔で報告をしてくれた。その中に物騒なセリフが混じっていて、シーズルが声を荒げる。

「まあまあ。シーズル、落ち着いて~」
「落ち着けるかあ!」
《 まあまあ。シーズル、餅焼いてー 》
《 まあまあ、シーズル。お茶挽いてー 》
《 一杯いきましょー 》
《 休憩しましょー 》
《 そーしましょ 》

妖精たちの言葉遊びが始まって、一気に脱力して机に突っ伏すシーズル。妖精たちに揶揄われたのではなく、私の言葉が気になったのだ。

《 なぜシーズルは怒ってるの? 》
《 なんでシーズルは興奮してるの? 》

そのため、お餅を焼いてお茶を淹れて休憩しよう。そうしたら落ち着いて話ができるだろう。
これはアルマンさんのリラックス方法だ。そのときはテーブルの上で正座をした妖精たちも一緒に小さな湯呑みで緑茶を飲む。

「休憩の準備をしてくれ。それで、冒険者がどうしたって?」

すでにピピンとリリンが休憩の準備を進めている。妖精たちのうち火と水の妖精たちがピピンと交代した白虎とリリンの手伝いに離れた。

「あれです。一番いちに白虎の毛皮、二番に魔物の死骸の横取り。魔物同士の乱闘だと思ったようですね」
「それで無用心に近寄って乱闘に巻き込まれた、ってことか」
「ええ、そうです。魔物の乱闘に巻き込まれた者と、寄ってきた肉食の魔物に襲われた者。そして逃げそびれた者。一応森の中で襲われたままの死体は運んできました。『死者の回収箱』です。そして死んでいない者はミュレイに預けてきました。治療してから収容所に入れるそうです」

ピピンの報告と共に差し出された魔導具をシーズルが受け取った。これはダイバが「死兵をこれ以上増やさないため」と言って、私とピピンに預けたものだ。

「それには現時点で三百体近くの遺体が入っています」
「今回、そんなに死んだのか」
「いえ……ここ数ヶ月、だと思われます。ここ数日では半数でしょうか」

ちらりと私を見たピピン。きっと私には聞かせたくないむごたらしい状態もあったのだろう。肉食の魔物に負ければ食される。五体満足など……ありえ、ない?

「ピピン。遺体は半数がここ最近の?」
「はい、腐敗しておりません」
「人数が数えられるということは……損壊していない?」
「戦闘によるものはありましたが、エミリアの考えているとおりです」

ダイバが大きく息を吐く。遺体の損壊など聞かせたくなかったのだろう。しかし、問題はそこではない。

「最近の遺体は?」
「キレイでしたね」

バタンッと立ち上がったのはダイバとシーズル。なぜピピンがミュレイに遺体の入った魔導具を渡さなかったのか、それに気付いたのだろう。

「遺体は一ヶ所にでもまとめられてた?」
「はい、廃村のひとつを占拠して。見張りがいましたが、騰蛇に預けてきました。キマイラたちが根性を踏み潰してくれます」
「「潰すなー!」」

二人が声を揃えるとピピンが「おや?」と不思議そうに首を傾げる。

「中途半端に腐った根性を叩き直すより、徹底的に潰してから再構築した方がいいと思いませんか?」

ピピンのいうこともわかる。だからこそ、二人から反論はでてこなかった。


「叩いて、叩いて、叩いて、潰して……」
「エミリア、料理ではないから」

実際に物はないが手をコネコネさせていたら、ダイバにツッコミを入れられた。生地をテーブルに叩きつけるマネをしていたのだ。

「パン作り」
「違う」
「クッキー」
「でもない」

テントに戻れば材料はあるから作れるだろう。……なんの予定もなければ。

「自由時間」
「すでにしっかり休憩しただろう?」
「妖精たちを休ませてやれ」

ダイバとシーズルに言われて頬を膨らませると、お茶を運んでくれたリリンがツンッと頬に触れて「エミリア、かわいい♪」と微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。