私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第549話

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「はあい、エミリア。オヤツの追加~」
「リリン、与えすぎるなよ」
「だあいじょうぶ~。……エミリア、外の様子がおかしいのよ」

急に真面目な表情になるリリン。

「なにが?」
「魔物が操られているわ。こっちに向かってくる」
集団暴走スタンピード?」
「……外にいた冒険者たちはすでに何人もやられているわ」
「ダイバとシーズルは?」
「例の商業施設で調査中」

リリンの様子に妖精たちが手を止め……暗の妖精クラちゃんがこちらを向いたまま放り投げたナイフが、スッターンとまとにあたった。顔の横、どうやら高得点だったようだ。

《 エミリア 》
「もう、気が済んだ?」
《 まだムカついてる。でもこっちの案件が最重要 》

暗の妖精クラちゃんが頬を膨らませて、それでも優先順位を間違えることをしない。カタンとイスから立ち上がったピピンが窓を振り向く。同じく窓の外を見ると、ダイバがシーズルと共に駆けてくるところだった。

「エミリア、魔導具の解除を」

ピピンの言葉に私より早くリリンが魔導具のスイッチを切る。

「うあ……わ、あ」

ちょうど床から現れた金糸が丸テーブルにナイフで固定されたままの男を連れていった。

「助けて……」
「ばあいば~い」

リリンが笑顔で微笑みながら手を振る。だから救いを求める相手が違うって。
ピピンが窓に近寄り観音開きの扉を開く。ダイバが気付き、シーズルに合図をするとそのまま窓枠に手をかけて飛び込んできた。シーズルもスピードを落とさずに地面を蹴ると窓枠に手をかけて一回転して入ってきた。ダイバの方が運動神経がいいとわかるのは着地姿勢。しゃがんだだけですぐに立ち上がったダイバと違い、シーズルは着地に失敗して前へずっこけた。床に顔をぶつけなかったのは風の妖精たちのおかげだろう。

「エミリア、操られた魔物がこっちにきてるって⁉︎」
「いまさっきリリンから聞いた」

目を閉じて、ぱりんっとラングドシャを割る。咀嚼して嚥下する。

「……探知、ここから約500メートル。……人間がいる。お前らジャマ。消えろ」

たくさんいる魔物の中に人間が三人。彼らが操っているのだろう。

「エミリア」
「いい、みんなは手を出さないで。人間は排除」

リリンが手を貸そうとしてくれたが止める。みんなには魔物を相手にしてもらうのだから。
どう捕まえようと思案したとき、ふと違う感覚に触れたと同時に意識が弾かれてしまった。

「エミリア!」

ピピンの声と同時に身体を支える柔らかい感触が胸に触れた。ふうっと息を吐き出して目を開くと、右からリリンが腕を差し出して机に倒れるのを防いでくれたようだ。顔を上げるとみんなの強張った表情が見える。暗の妖精クラちゃんは青ざめて両手を頬にあてて声にならない悲鳴をあげていた。
リリンにお礼をいって身体を起こすとそのままリリンに抱きしめられた。その腕は震えている。

「エミリア、何があった?」

ダイバの声もわずかに震えている。それだけ大きな影響があったのだろう。バクバクと心臓が激しい。思った以上に衝撃があったのだろう。ふうっと大きく深呼吸を繰り返して落ち着いてから口を開く。

「魔物の中に三人の人影がみえた。ただ、人でも魔物でもない感覚があった。気がついたと同時にその感覚に触れて……弾かれた。ダイバ、確認して」
「ああ、手を貸せ」

ダイバが私の左手に自身の手を重ねて目を閉じる。あの触れた感覚を思い出すと一瞬身体が震えた。それが恐怖からくるのかはわからない。ただ……同時にダイバの表情が曇った。

「アイツ、か」

ひらかれたダイバの目には殺気が含まれている。誰をみたのか、『アイツ』とは誰なのか。

「シーズル。……あの男がいた、レインドルーブ」
「……あの野郎! まだ生きていたのか」

ダイバの言葉にシーズルの怒りが脳天を越えて噴火した。口から火を吐いて怪獣と化している。

「レインドルーブって誰?」

私がみた三人は普通の人間に見えた。その三人の誰かか、ほかにも人がいたのか。

「エミリア、俺たちがこの大陸に来た理由を知っているな?」
「男たちに騙されて奴隷にされるために連れてこられた」
「ああ、そうだ。……レインドルーブは、そのときに捕まった犯罪者たちのリーダーだ」
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