私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第546話

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廃都にいる妖精たちの復讐イタズラが始まった。

《 三人を傷つけ眠らせた仕返しー! 》
《 第一弾! ねむごなー 》

この作戦によって、魔導具を設置した人たちは何をしていても四六時中眠たくなった。
食事中でも眠くて皿に顔を突っ込んだり、歩きながらでも鍛錬中でも眠気はまとわり付いて壁や物にぶつかって目を覚ますという……地味で、それでいて行動が大幅に制限されるものだ。これによって、シーズルが来る前に逃げる、という作戦は取れなくなった。もし廃都から出ても、凶暴化している魔物とこの状態で満足に戦えそうもなく全滅もあり得る。間違っても運で勝てるはずはなかった。
さらに仮死に近い状態で睡りについた者が三人……妖精たちの被害と同じ人数だ。彼らは隊長と副隊長、そして爆弾の魔導具を設置した隊員だった。指示をする人がいなくては、グループでまとめられた人たちは自分の判断で動かないものだ。唯一動くのは、誰かが魔物に襲われて見捨てて我先に逃げるときだろう。


《 第二弾! うっかりごなー 》

これは地味な嫌がらせ。名前のとおりうっかりした行動が多くなる。
段差を踏み外したり、手を滑らせて魔導具を落としたり、泥水に足を突っ込んだり……

「まだ仲間がいるのに扉を閉めて、それに気付かず開いていると思い込んで扉に顔面を激突させたのをみたぞ」
「ダイバが声をかけたら、振り向きざまに肩に載せていたハシゴをスウィングして仲間を殴って吹っ飛ばしてたね」

あれはまるで昭和のギャグのようだった。一触即発になりかけたけど、私が大笑いしたことでそれは回避できた。

「あれは眠気からくる不快感から怒りっぽくなってただけ。笑われると怒り出す人はいるけど、怒ってて笑われると逆に恥ずかしさから怒れなくなるんだよ。でもお笑いネタが現実で起きるとここまでおかしいなんて……クククッ」
「エミリア、連中の顔を見るたびに笑うのはやめろ」
「だって、思い出すんだもん」

実は彼らはその数日後にもハシゴで笑いをとっていた。

《 第三弾! 笑いの爆弾 バクダーン 》

第二弾で使用したうっかり粉の効果を強めて容器カプセルに詰めたものを投げつけたのだ、口の中へ。素直に嚥下ごっくんしたのは、眠っているときに入れられたからだ。

ハシゴを持っていたためダイバが「ハシゴを抱えて……どこか壊れているところでもあるのか?」と尋ねた。今回は普通にハシゴを建物の壁に横に立て掛けられてダイバに修理箇所の話をし始めた。そのハシゴに気付いて「持ってくぞー」と言った男……これがギャグの始まりだった。ひょいとハシゴを横にしたまま腕を通し歩き出した。ちょうど肩からバッグを掛けたように、ハシゴは前後に伸びている。そのまま建物の入り口を横断したため、ちょうどあくびをしながら建物から出てきた人が頭を突っ込んだ状態に。ハシゴを抱えた男は特に気にもせず止まらず。結果、二人の男の首を挟んだ状態でお引き摺りに。

「「あれは気絶した死んだな」」

私とダイバが声をそろえたときは、気付いた人たちが止めて後ろを指差した。後ろを指差されたら人はどうするか。後ろを確認しようとするだろう。男も後ろを振り向いた、男の首が挟まったハシゴを肩にかけたまま。

「……エミリア、笑いすぎだ」
「そういうダイバだって……」

離れているのに『ぶうん』という音が聞こえそうな勢いで男と共にハシゴが振られ、同時に二人の男の身体もくうをとんだ。そしてまた前へと身体を戻した。気絶しているのか、その身体に意思はなく。面白いように左右へと振り回されるその身体で、周囲に集まっていた人たちが吹き飛ばされていく。

「も、もー、サイコー」

ダイバにしがみついて笑い崩れる私と、私を支えながら声を殺して笑うダイバ。ダイバと話していた男は顔が引き攣っている。笑いと驚きとが混在したその表情は、頬がピクピクしていて痙攣しているのかもしれなかった。

…………ただ、それだけでは終わらなかった。

二人は助け出され、くだんの男はふたたびハシゴをもっていくと施設の外壁に立てかけた。先日、臭液が大量に降り注いだ建物だ。どうやら、二階建ての屋上に雨水を溜めるためのタンクがあり、そのタンクが詰まっているのかもしれないということで調査するそうだ。

「屋上にあがる鍵がなくてな。いつも外からハシゴをかけて修理しているんだ」

それで5メートルの長いハシゴが必要で、ダイバが話しかけた男とギャグ体質の男は、施設内で店を開いている商人らしい。安全が確認できないため、営業ができないそうだ。
立てかけられたハシゴを、さらなる登場人物がひょいひょいと上がっていったが……

ずるずるずる~。

ただ置かれただけのハシゴを確認しなかったのか、横木を十段もあがらないでハシゴが地面を滑っていきパッターンッとうつ伏せに倒れた。

「エ、エミリア、笑うな」
「ムリぃぃ……」

笑いを堪えながらダイバが止めようとしても、笑いを含んだ声では無理な話だ。
ハシゴを立てなおした男は、今度は慎重にのぼっていく。仲間二人がハシゴを両側から支えている。

バキッ!

木が砕けた音がして、横木に掛けた足に体重をかけていた男は……ダダダダダンッとハシゴを滑り降りた。音は横木にアゴをつけたからだ。

「あれって、さっき二人が首を挟んで振り回されていたところじゃない?」
「そのせいで横木に亀裂が入っていたんだろうな」

落ちたあと、ハシゴが倒れてきて、横木と横木の間に頭をすっぽり入れた男は、目を回してひっくり返った。
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