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第十章
第545話
しおりを挟むダンジョン都市にはいくつもの魔除けで有名な植物が自生している。ここが騰蛇の支配下であることで、通常では育ちにくい植物でも大きく逞しく育っている。その中でも超貴重ランクに加えられる世界樹が東西南北と中央に複数本、普通にスクスクと元気に育っている。
「元々は騰蛇が見つけて育ててたんだよね」
《 枯らすのがもったいないから、だって 》
もったいないどころの騒ぎではない。ここにあるものは、この大陸以外でもあまり見つからないものばかりだ。唯一、オリーブの木だけが食用油が採れるということで世界に残された。
ナナカマドは魔を祓えるとして各国では治療院の敷地内に数本しかないそうだ。しかしここにはあちこちで見ることができる。妖精たちの家の敷地の四隅に各一本ずつで計四本。あとはダンジョン都市にある植物採集専用のダンジョンにもある。『魔を祓う』効果があるため、魔物が一体も出ないのはそのためだ。
実際問題、意図的ではないかとも思える。
世界樹の枝で杖を作れば、神を滅ぼす『ユグドラシルの杖』となる。禍々しい魔を祓えるナナカマドは、この都市には一ヶ所しかない城門とダンジョン関所周辺に自生して浄化をしている。魔除けになるハシバミ、その実は知恵の精霊が封じ込められていると言われている。食べることで行き詰まった難題が解決しやすくなるのは、知恵の精霊が光を与えてくれるからだと……日本にいた頃の神話で言われてきた。そして光明を見つけた人たちが迷わないよう、正しい導きをしてくれるのがオリーブの木。有名なノアの箱舟の話で、放たれた鳩が水がひいて大地が現れたことを知らせたオリーブの枝は道しるべとされている。
「神から見捨てられたこの大陸を守るために、この都市がつくられたみたいだね」
妖精たちが移植したい植物のリストとその位置をチェックしていたときにそう話したことがある。まるで人々が神に反旗を翻したとき、神に一撃でも与えられるような武器をつくれるように。そして神の前へ辿り着けられるように道しるべや、神に対抗できる知恵を得られる実。
「まるで、神に翻弄されないように守ってくれているみたい」
魔に侵された者に救いがあるように、各地の治療院にナナカマドがある。秘匿され、増やすことをしないため、町や村ではナナカマドの効果は薄い。ダンジョン都市では、当たり前のように自生しているナナカマドの木によって、魔に侵されたものは長く滞在できない。苦しくなって治療院に駆け込めば救われる。しかし、ほとんどが居心地が悪くて去っていく。
魔導具が強化されるまで入ることができた魔に侵された人も、いまでは城門で弾かれるようになった。私が所持している操り水で商業ギルドでは禁制品として取り扱われている。ただピピンと私は薬師法により所持が許されている。それは操り水の研究とその解毒に成功したからだ。さらにファウシスで出回った瓶入りの操り水による異物混入によって所持自体が禁止となった。
それでも国内外で操り水を使っているサヴァーナ国は違法国として世界に危険視されることとなった。早い国はサヴァーナ国の国民や国に属する商人による越境を禁止した。
「これでサヴァーナがどう動くか、だな」
「国内に流したウワサもいい具合に広がったから、そろそろ動きがあるんじゃない?」
この大陸では、どんな悪事でも神の罰は与えられない。大陸ごと見捨てられたからで、ここにいる人たちも神の加護はない。唯一、ほかの大陸で加護を受けてこの大陸に渡った人が持っているだけ。
重ねた罪を償わなければ死後、罪の大きさによっては魔物に生まれ変わる。騰蛇はそんな神の罰から人々を守るために『神の眷属による罰』を与えている。
彼の国の人たちに神が罰を与えた。それによって彼らは姿を変え、死ぬことが許されなくなった。それには騰蛇だけでなく神獣たちまで激昂した。
「見捨てた地に見捨てた人々。見捨てた以上、罰を下すことはできない。それなのに神は『妖精を救うため』との理由から手を出した。……口実にした妖精だけを救えばいいのに、なぜ国民全員に罰を与えたのか。それは、その妖精が越権行為をした神にとって見捨てられない大切だった神のカケラだったから?」
「その神はなぜ死んだの? っていうか、今までに何人の神が死んで聖霊や精霊、妖精たちに生まれ変わったの?」
「神に関する辞典がないな。知られていない神が多いのか?」
「だいたい……私たち人間が神を討伐したの? 罪を犯した神が殺されたの?」
私たちの考えに妖精たちも騰蛇も、肯定も否定もしなかった。それは私たちが見極めることだというように……
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