私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

文字の大きさ
上 下
532 / 789
第十章

第545話

しおりを挟む

ダンジョン都市シティにはいくつもの魔除けで有名な植物が自生している。ここが騰蛇の支配下であることで、通常では育ちにくい植物でも大きく逞しく育っている。その中でも超貴重ランクに加えられる世界樹アッシュが東西南北と中央に複数本、普通にスクスクと元気に育っている。

「元々は騰蛇が見つけて育ててたんだよね」
《 枯らすのがもったいないから、だって 》

もったいないどころの騒ぎではない。ここにあるものは、この大陸以外でもあまり見つからないものばかりだ。唯一、オリーブの木だけが食用油が採れるということで世界に残された。
ナナカマドは魔を祓えるとして各国では治療院の敷地内に数本しかないそうだ。しかしここにはあちこちで見ることができる。妖精たちの家の敷地の四隅に各一本ずつで計四本。あとはダンジョン都市シティにある植物採集専用のダンジョンにもある。『魔を祓う』効果があるため、魔物が一体も出ないのはそのためだ。

実際問題、意図的ではないかとも思える。

世界樹の枝で杖を作れば、神を滅ぼす『ユグドラシルの杖』となる。禍々しい魔を祓えるナナカマドは、この都市まちには一ヶ所しかない城門とダンジョン関所ゲート周辺に自生して浄化をしている。魔除けになるハシバミ、その実は知恵の精霊が封じ込められていると言われている。食べることで行き詰まった難題が解決しやすくなるのは、知恵の精霊が光を与えてくれるからだと……日本にいた頃の神話で言われてきた。そして光明を見つけた人たちが迷わないよう、正しい導きをしてくれるのがオリーブの木。有名なノアの箱舟の話で、放たれた鳩が水がひいて大地が現れたことを知らせたオリーブの枝は道しるべとされている。

「神から見捨てられたこの大陸を守るために、この都市まちがつくられたみたいだね」

妖精たちが移植したい植物のリストとその位置をチェックしていたときにそう話したことがある。まるで人々が神に反旗をひるがえしたとき、神に一撃でも与えられるような武器をつくれるように。そして神の前へ辿り着けられるように道しるべや、神に対抗できる知恵を得られる実。

「まるで、神に翻弄されないように守ってくれているみたい」

魔におかされた者に救いがあるように、各地の治療院にナナカマドがある。秘匿され、増やすことをしないため、町や村ではナナカマドの効果は薄い。ダンジョン都市シティでは、当たり前のように自生しているナナカマドの木によって、魔に侵されたものは長く滞在できない。苦しくなって治療院に駆け込めば救われる。しかし、ほとんどが居心地が悪くて去っていく。

魔導具が強化されるまで入ることができた魔に侵された人も、いまでは城門で弾かれるようになった。私が所持している操り水で商業ギルドでは禁制品として取り扱われている。ただピピンと私は薬師やくし法により所持が許されている。それは操り水の研究とその解毒に成功したからだ。さらにファウシスで出回った瓶入りの操り水によるによって所持自体が禁止となった。
それでも国内外で操り水を使っているサヴァーナ国は違法国として世界に危険視されることとなった。早い国はサヴァーナ国の国民や国に属する商人による越境を禁止した。

「これでサヴァーナがどう動くか、だな」
「国内に流したウワサもいい具合に広がったから、そろそろ動きがあるんじゃない?」

この大陸では、どんな悪事でも神の罰は与えられない。大陸ごと見捨てられたからで、ここにいる人たちも神の加護はない。唯一、ほかの大陸で加護を受けてこの大陸に渡った人が持っているだけ。
重ねた罪を償わなければ死後、罪の大きさによっては魔物に生まれ変わる。騰蛇はそんな神の罰から人々を守るために『神の眷属による罰』を与えている。
の国の人たちに神が罰を与えた。それによって彼らは姿を変え、死ぬことが許されなくなった。それには騰蛇だけでなく神獣たちまで激昂した。

「見捨てた地に見捨てた人々。見捨てた以上、罰を下すことはできない。それなのに神は『妖精を救うため』との理由から手を出した。……口実にした妖精だけを救えばいいのに、なぜ国民全員に罰を与えたのか。それは、その妖精が越権行為をした神にとって見捨てられない大切だった神のカケラだったから?」
「その神はなぜ死んだの? っていうか、今までに何人の神が死んで聖霊や精霊、妖精たちに生まれ変わったの?」
「神に関する辞典がないな。知られていない神が多いのか?」
「だいたい……私たち人間が神を討伐したの? 罪を犯した神が殺されたの?」

私たちの考えに妖精たちも騰蛇も、肯定も否定もしなかった。それは私たちが見極めることだというように……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。