私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第543話

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ユーグリアの森の廃都に戻った私たちはいくつかの変化に気がついた。

「人数が減ったな」
「はい、戦火が近付いていると知って逃げ出しました」
《 ファウシスとサヴァーナ、サフィールの三国からきてた連中だよ 》
《 国には帰ってない 》
《 別の廃村に向かったけど……すでに丸呑みされたよ、騰蛇に 》

ダンジョン都市シティの正式な住人には、同じ住人(?)に正式に加わった妖精たちが視認できるように魔道具が配られている。同調術を使わなくても視認し会話もできる。最初は庁舎の報告会で魔導具が使われていた。しかし、庁舎内で働く妖精たちが現れるようになり、都市まちの環境美化まで管理するようにまでなったことで、建物に設置される魔導具から個人に支給される魔導具へと変化した。
その魔導具をダイバは持っているが、ダイバが話しかけた彼らは所有していない。妖精たちの会話が聞こえていない時点で……

「俺が離れていた間のことを後で教えてくれ。さすがに疲れた」
「わかった、報告書にまとめておく。ダイバから渡してくれよ」
「ああ、サンキュー」

仮宿の扉を開くと、バサバサバサッという音と共に部屋の中央に起動が強制停止された魔導具が小山をつくった。妖精たちが集めてきたのだ……まだ結界を張っていないにも関わらず。

「おいおい、こりゃあ何だ?」

ダイバが分かっているものの周りに聞こえるように驚きの声を上げる。それに周りが近寄ってくる。その中にはさっきまでダイバと一緒にいた男も含まれている。

「おい、どうした?」
「ああ、部屋の中に魔導具の山が。こら、不用意に近寄るな」

私が近寄ろうとしたが軽く抱き止められる。たしかに何もわからない状態なら爆弾でも設置されている可能性があるだろう。ダイバが周りと話している内容から、扉を開けたらこうなっていたと周りに目撃させて証言者にしたようだ。実際に、私たちは解錠して扉を開けただけで、中に入っていないことは誰もが証言するだろう。

「ダイバ、あれは……こちらで回収して調査にまわそう」
「いや、いい。俺が回収してシーズルに渡す。戦場から戻る際にこっちに寄ると言っていたから」
「あ、ああ。……そうか」

調べられるのが嫌なのか、シーズルに会うのが嫌なのか。それとも両方なのか、表情がかたい。後ろからまだ私が近寄ろうとしないように腕を回しているダイバに振り返るように顔を後ろに向けつつ周りの様子も確認する。

「シーズル、くるの?」
「ああ、戦場の事後処理の簡易報告に」

捕虜と遺体の送致にはダンジョン都市シティ特製の移動檻が使われている。内部には空間魔法が使われているため、何千人でも詰め込んで運べるからだ。王都で大量に手に入れた矢は鉄塊にして庁舎経由で移動檻の発注が行われた。始動は収納カバンと同じく、檻に手を添えて対象者を収納するように改善された新作だ。手首につけられた手枷がその者の罪禍をステータスから読み取りステータスそのものは一律に封じられる。その手枷の判断によって送られる檻は変わる。その機能がいま、戦場の事後処理で存分に発揮されている頃だ。

「シーズルがくる」

その言葉に目が泳いだ者と鋭くなった者に分かれた。

「周囲を撮ってくれ」

扉を開くと同時に状況を把握したダイバにそう言われて起動させたお守りアミュレットの録画機能。360度、ダイバの背後の人たちすらも撮影できるのは私にくっついているから。

「ここで待ってろ」
「気をつけてね」

ああ、と言って私の頭に軽く手を乗せたダイバが小山になった魔導具に近付く。そしてこちらに背を向けた状態で膝をついて魔導具をひとつずつチェックして隣に置いていく。

《 これは録画機能だよ 》
《 こっちは爆弾だよ。人を察知したら爆発するんだ。完全に停止させられなかったから、直接魔石を壊しちゃった。……ごめんなさい 》
「いや、助かった。お前たちに被害は?」
《 直接壊した三人が……。いまは屋根裏で寝てる 》
「あとで迎えにいく。ここには鍵をかけていたはずだ」
《 うん……さっきダイバ話していた男と仲間たちが、二人がいなくなってすぐに調べにきた。『自分たちのことを調べにきたんじゃないか』って 》
「そうか。……ここに寝ている奴がいるぞ」
《 あっ! さっき集めて持ってきたときにいなくなって…… 》

ダイバと妖精の会話は風の妖精が届けてくれているため私には聞こえるが、それ以外の人たちには風の妖精たちが《 あっかんべ~ 》と言ったり舌を出して聞こえないようにしている。その仕草がイタズラっ子のようで可愛い。ここにいる人たちは妖精が見えないからこんな可愛い姿も見えていないようだ。……残念だねえ。
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