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第十章
第541話
しおりを挟むドンッ!!!
ババババババッ!!!
魔法が上空に一発放たれる。それが破裂すると同時に四方八方へと展開されて兵士たちの頭上に降り注ぐ。一瞬で水蒸気と化していくのは、降り注いでいるのが高温の水だからだ。ただし攻撃に特化した魔法ではなく普通の水。ユーグリアの廃都で二日酔いの酔っ払い(+α)の頭上に降り注いだ臭液ではなく、普通に飲めるただの水。
「ただし、熱湯をかぶると重度の熱傷となり、熱傷指数30で半数、70でほぼ全員が死ぬ。そして熱気を吸い込むことで気道熱傷になるけど、専門病院で治療しなければ墓場まで一直線。穴掘ってベッド代わりに寝かせておけば、死ねば土をかぶせて土葬の出来上がり」
「エミリア……お前なあ」
ダイバが呆れたようにため息と共に言葉も吐き出す。今回は万を超える軍隊が動いた。それも三千の兵士で編成された死隊という。
前回は一兵卒も帰ってこなかった。死者でさえ還らず。それは戦死者の遺体を放置すれば、魔物が押し寄せてくるからだ。さらに遺体を還せば次の死隊として戦場に送られることになる。
「あの大将を使い捨ての死兵にしたくない」
一騎討ちをして生命を散らした大将の誇りを傷つけたくなかった。それを酌んだルヴィアンカが「今回の戦闘で一番の功労者である彼女の意に沿うように。もし不満があるなら、次の戦闘で一番の功労者になるがいい」と命じた。
相手は若くても一国の国王。反論などでるはずはない。しかし、私には無遠慮な視線を向けてくる。
そしてこの状況が生まれた。
「今回も、わったしが~、イッチバンの功・労・者~♪」
私の狙いは死隊ではなく本隊だ。安全な後方で守られ、両脇に女を侍らすクズ王太子が出張っているのだ。前回は一人も帰ってこなかったという大敗を叩きつけられた。それを払拭するために、向けられるだけの死隊と軍をタグリシア国へと向けたのだ。そして王太子を旗頭に据えることで国の威信をかけての戦いだと各国に知らしめたのだ。「できれば生かせ。泣くほどの拷問を与えてから首を落とす」とシーズルから言われている。
「あれは女の敵。権力を持った女好きほど切り刻んでやりたい」
「安心しろ。アレは男にとっても敵だ。あんなバカがいるせいで、男の威信が地に落ちる」
「シーズル、すでに手遅れ。男の威信なんてはるか昔に地に落ちてるし、あまりにも恥ずかしくて、地面に穴掘って地中生活してるよ。彼らの親玉は騰蛇だね」
「「「違えねえ!!!」」」
私のツッコミにダンジョン都市からきた人たちは声をあげて笑う。話に表情筋が凍りついて引きつっているのは、それ以外から集まってきた職業軍人たち。一番の功労者になるぞと勇ましく飛び出してきて、魔法戦争の脅威に驚いて逃げ出せなくなっているのだ。
「軽く猫パンチを繰り出す前哨戦ではない。生命を掛けあった、死と隣り合わせの戦い。それが国の威信をかけた国境線だ」
私たちがいるのは地面から三メートルの高台。これは地属性の魔法により作り出したタグリシア国側の陣屋だ。ここから見渡せる一面はすべて敵軍のカラフルな頭……だった。今は私の魔法で発生した水蒸気で白いモヤが広がっている。
「さあ、地上の花火を見る準備はオッケー?」
「ああ、全員サングラスを装着しろ」
シーズルの言葉にダンジョン都市からきた人たちはサングラスをかける。私は目の前に暗魔法で黒く透明な光よけを作り出す。
『雷の矢』
弦を引き構えた弓に雷属性でできた矢を番えてひょうと放つ。そこに重ねた風魔法と共に一気に熱湯をかぶった軍隊の頭上を飛んでいく。前線にいた三千の死兵はすでにその場にはいない。水蒸気が目隠しになったため、四つ目のカワイイわんこたちがお仕事をして死の国へと誘ってくれたのだ。
バチッ
ドンッ
雷が水蒸気に触れるたびに光が浮かびあがる。青白かったり、白かったり、黄色だったり。水蒸気の中を駆け回る光も見える。死隊なきいま、彼らの姿は丸見えである。ただ、ここから距離があるため、あがっているであろう悲鳴は届かない。
その光がひと段落つくと、そこには死屍累々の……
「生きてるねえ」
「再起不能も多いな」
「死んでないねえ」
「生け捕り、ご苦労」
遠くからでも確認できるのは、水蒸気が空に還ったため見通しが良くなったからだ。起きあがろうとしては地面に突っ伏す、それを繰り返しているのだ。
死んだのは、最初に熱湯をかぶったのと水蒸気を吸い込んで気道熱傷になった兵士たちだ。そして感電死した兵士と兵士ではない女性たち。そう、王太子に侍っていた連中だ。望む望まないに関係なく戦場に出た以上は死と隣り合わせ。ただ、苦しまず一瞬で死ねるよう配慮はしたつもり。それでも数百人の犠牲者はでただろう。
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