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第十章
第539話
しおりを挟む「エミリア。周りの様子はどうだった?」
仮宿に戻って妖精たちが結界を重ねて張った後、ダイバは真面目な表情に戻すと私にそう尋ねた。私が外で子供っぽくするのは、それだけで周囲の気がゆるむからだ。さっきもそうだ。私がダイバの後ろに隠れたのも、それで周囲の様子がよく分かるからだ。
「ダイバの左側で槍を持ってた濃緑色の冒険者服の男。それとその周囲にいた連中。あの目は一点を見てた」
「……どこを見てた?」
「騒いでいる連中の上。あの臭い、臭い、常識から逸脱した臭いを放つあの液体が落ちてきたのは何ででしょ~か?」
「…………考えられるのは、天井が劣化していた。廃都になってかなりたつから、建築魔法が弱って天井が落ちてもおかしくはない。しかし、あの天井には抜けた様子も亀裂すらもみられなかった」
「臭液をかぶった彼らの位置を考えると、天井が完全に抜けていなければおかしいよね。連中は一ヶ所に固まっていたのではなく、あちこちに広がっていたんだから」
そして、なぜ沼の水があれほど大量に落ちてきたのか。
「それに関しては……心当たりがあるというか、心当たりしかないというか」
「戦争下でやることといったら、暗殺に口封じに証拠隠滅。そして日本の創作で使い古されたアリバイ工作。まあったく……『みんなを殺せば真意は見つからない』なんて思ってんのかな」
スライムを殺そうとするのは、潤滑油を手に入れようと考えている私くらいだ。今でもスライムに対して冒険者たちが忌避しているのは変わらない。
「スライムの色で属性が違うといっても、茶色のスライムが植物を操るんだぞ!」
「そりゃあ、そうでしょ。茶色は地属性。んでもって、地属性だから植物を操れるのは当然っちゃあ当然でしょ。あ、ちなみにリリンは緑色だから植物に特化してるの」
ちなみに騰蛇の作ったダンジョンに『スライムだけのダンジョン』が存在する。そこにピピンとリリンが一緒に入っても大丈夫なのかって?
「エミリア。そろそろ倉庫の潤滑油がなくなってきましたよ」
「ハーバリウムを作りすぎたかな。フィムのおもちゃに『輪っか入れゲーム』や『ボール入れゲーム』も作ってたし、スノードームも作ってたから」
「結構幅広く使えるものですね」
《 エミリア以外に使おうとしないけどね 》
「それは潤滑油の依頼を冒険者が受けないから。私は自分で使うからあげないよ」
《 すぐに足りなくなって潜りにいくのにね 》
一回の探索でとれる量は100キロ。それこそ『塵も積もれば山となる』、一体から得られる量が5グラムと少なくてもバカにはできないのである。
そして私の聖魔たちは魔物を手加減なく屠っていく。
「でもさ、図鑑ではユーグリアの森ってスライムは棲息領域外だよね」
「ああ、ここにスライムは……ピピン、気配は感じないよな?」
ダイバがピピンの小さな表情の変化に気付いたようで確認をする。
「はい、森の中には」
その回答に私たちは顔を見合わせる。
『森の中にはいない』、ではどこにならいるのか。考えられるのはこの廃都内。魔導具によって、この廃都から出られなくなった……
「ねえ、ダイバ」
「なんだ?」
「このユーグリアが都として存在してた頃、魔物の集団逃走で滅んだんだよね」
「ああ、滅んだというより捨てて避難したって方が近いな」
「その頃にはすでに魔物よけの魔導具があったんだよね。なんで効いていないの?」
私の指摘でダイバの表情が驚きに変わる。
「それと、なぜ事前に集団逃走を察知して全員が無傷で避難できたの?」
「たしか……隣の国から連絡がきた、という話だ」
「こっちの方角と言われても、警告を受けたとしても。複数個の魔物よけが設置されているのと強固な城壁があるから立てこもることはあっても、住人全員を連れてファウシスへ逃げ出すことはないよね」
「…………仕組まれたことだったのか」
魔物が村を襲うことはよくある。町を襲うこともある。しかし、この廃都のように頑丈な城壁がある町を襲うことはほとんどない。守備隊は町を守るために存在し、冒険者たちも高額の依頼料と討伐して手に入れられるドロップアイテムのために参戦する。
魔物も、先頭が攻撃を受ければ方向転換をする。押し通ることはまずしない。それは種族の絶滅を意味することを本能で察知するから。
「でも、それをせずにひたすら魔物が押し寄せる場合、理由はいくつかある。ひとつ目は操り水のように操られている場合。でも当時は水ではなく、さらに魔物に飲ませるのは無理。本能で危険だと察知される可能性が大きい」
「……じゃあ、ふたつ目は?」
「そんなのは簡単。生け捕りにした魔物がたくさん集められていた」
これはルーバーに聞いた昔話からの予測だ。しかし、昔話には真実が紛れ込んでいることも未来へのメッセージもある。
そしてその話にはある国と共通する部分もあった。
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