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第十章
第537話
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「報告では、ダンジョンより魔物が強くなっているらしい」
「やっぱり、ね」
「草食の弱い魔物でさえ、討伐隊をみても逃げ出すどころかキバを剥いて襲いかかってくるそうだ」
「結局、操り水を取り込んだ草から草食の魔物。その草食を雑食や肉食の魔物が捕食することで汚染が拡大していってるんだね」
そして、その肉を食べた人間まで感染した。ただ思ったより軽微ですんだのは、魔物の肉を分け合って少しずつしか口にしないからだ。
「その肉は余ったら冒険者ギルドに売ってる?」
「ああ、売ってはいるがここにいる連中が買っていくため、よそへ売れるほど肉はない。個体種によって差はあるものの結構強いため、複数のパーティで組んで討伐にいくようだ」
それもそうだ。何百人という人たちがこの廃都を根城にしている。全パーティに均等に肉が手にはいるなら魔物は大幅に数を減らしているだろう。
「それにしても、操り水の情報を知らなければ普通に『魔物の集団暴走の前兆が始まった』としか思えないよね」
「調査してみないとわからないが……。今までも操り水の実験で人為的な魔物の集団暴走が起きていたのかもしれないな」
過去にエリーさんの好きだった人のパーティが壊滅した一件も同じかもしれない。
「操り水の影響下にある魔物を操った可能性だってあるよね。たしか『異常なくらい強かった』って言ってたよ」
「この森の魔物と同じ状態、か」
「そういえば、ムルコルスタ大陸にまで犯罪ギルドが取り引きしていたんだよね」
すでに完全壊滅した犯罪ギルド。その壊滅に貢献したはずのアウミは、いま女神とともにこの戦争に関わっている。そしてアウミと女神は大本を辿ればムルコルスタ大陸にかつてあった旧シメオン国にある。
「この戦争は女神とアウミをどうにかできれば終わるのか。それとも流民となって世界を彷徨っているはずの旧シメオン国の民がいまどこにいるかを調べる方が先か……」
最初の死隊……彼らはどこの国から始まったのか。
私たち二人は仮定を立てている。その死兵は流民によって構成されたのだろう。悲しいかな、流民は人として認められず。たとえ殺しても罪に問われない。そんな彼らを死兵にし死隊を生み出したとすれば、どこかに記録が残っているだろう。
「あと調べるのは死隊の隊長の存在」
「ああ、奴隷市で捕まえて自供させた連中がおかしなことを言っていたな」
彼らは兵士でも職業軍人でもない。どこかの国の守備隊や警備隊だった者たちだ。
「ノーマンが生きてパルクスにたどり着いていたら……死隊の隊長になってた可能性があったんだよね」
「そうだな。それも友情も愛情も失った心で、無情に殺して回っただろう」
その国の内部情報を持っている。特にノーマンは隊長をしていた。操られて情報を渡していたとしたら……
「ダンジョン都市には来ないな」
「あれ? ノーマンって『ダンジョン都市は騰蛇の支配下にある』って知ってる?」
「いや……ノーマンが都長になっていたら知ることになっただろうが、その前に出て行ったからな」
「じゃあ、ノーマンを連れて行っても意味なかったじゃん。特別な情報を持っているわけではないし、持っていても手出しできないでしょ」
ダンジョン都市は国から自治が許された特別な地区。情報は多くが非公開になっている。それは騰蛇が関わっているから。しかし、騰蛇のことがなくても過去の貴族騒動は国内外でも有名な上、安全重視なため都市にはいるには厳しい審査が必要といわれてきた。そして入れなかった人たちが未練たらしく住み着いたのが外周部だということも。
「なんでノーマンだったんだろうな」
……ダイバの呟きが私の心の中で引っかかった。
「やっぱり、ね」
「草食の弱い魔物でさえ、討伐隊をみても逃げ出すどころかキバを剥いて襲いかかってくるそうだ」
「結局、操り水を取り込んだ草から草食の魔物。その草食を雑食や肉食の魔物が捕食することで汚染が拡大していってるんだね」
そして、その肉を食べた人間まで感染した。ただ思ったより軽微ですんだのは、魔物の肉を分け合って少しずつしか口にしないからだ。
「その肉は余ったら冒険者ギルドに売ってる?」
「ああ、売ってはいるがここにいる連中が買っていくため、よそへ売れるほど肉はない。個体種によって差はあるものの結構強いため、複数のパーティで組んで討伐にいくようだ」
それもそうだ。何百人という人たちがこの廃都を根城にしている。全パーティに均等に肉が手にはいるなら魔物は大幅に数を減らしているだろう。
「それにしても、操り水の情報を知らなければ普通に『魔物の集団暴走の前兆が始まった』としか思えないよね」
「調査してみないとわからないが……。今までも操り水の実験で人為的な魔物の集団暴走が起きていたのかもしれないな」
過去にエリーさんの好きだった人のパーティが壊滅した一件も同じかもしれない。
「操り水の影響下にある魔物を操った可能性だってあるよね。たしか『異常なくらい強かった』って言ってたよ」
「この森の魔物と同じ状態、か」
「そういえば、ムルコルスタ大陸にまで犯罪ギルドが取り引きしていたんだよね」
すでに完全壊滅した犯罪ギルド。その壊滅に貢献したはずのアウミは、いま女神とともにこの戦争に関わっている。そしてアウミと女神は大本を辿ればムルコルスタ大陸にかつてあった旧シメオン国にある。
「この戦争は女神とアウミをどうにかできれば終わるのか。それとも流民となって世界を彷徨っているはずの旧シメオン国の民がいまどこにいるかを調べる方が先か……」
最初の死隊……彼らはどこの国から始まったのか。
私たち二人は仮定を立てている。その死兵は流民によって構成されたのだろう。悲しいかな、流民は人として認められず。たとえ殺しても罪に問われない。そんな彼らを死兵にし死隊を生み出したとすれば、どこかに記録が残っているだろう。
「あと調べるのは死隊の隊長の存在」
「ああ、奴隷市で捕まえて自供させた連中がおかしなことを言っていたな」
彼らは兵士でも職業軍人でもない。どこかの国の守備隊や警備隊だった者たちだ。
「ノーマンが生きてパルクスにたどり着いていたら……死隊の隊長になってた可能性があったんだよね」
「そうだな。それも友情も愛情も失った心で、無情に殺して回っただろう」
その国の内部情報を持っている。特にノーマンは隊長をしていた。操られて情報を渡していたとしたら……
「ダンジョン都市には来ないな」
「あれ? ノーマンって『ダンジョン都市は騰蛇の支配下にある』って知ってる?」
「いや……ノーマンが都長になっていたら知ることになっただろうが、その前に出て行ったからな」
「じゃあ、ノーマンを連れて行っても意味なかったじゃん。特別な情報を持っているわけではないし、持っていても手出しできないでしょ」
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「なんでノーマンだったんだろうな」
……ダイバの呟きが私の心の中で引っかかった。
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