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第十章
第536話
しおりを挟む「あ、そういえば討伐……」
ふと意識が現実に戻る。リリンの踊りをみてて思い出していた過去を記憶のタンスに戻して立ち上がる。正気に戻り始めた彼らに、魔物の情報を聞いてこようと思ったのだ。
「ねえねえ。魔物ってダンジョンの魔物と違う? どう違う? 攻撃力は? 統率とかできてるの?」
「エ~ミ~リ~ア~。そう矢継ぎ早に質問しても答えられないだろーが」
ダイバの近くにいる男の人に聞いていたら、後ろからダイバに口を塞がれた。
「むご~っ、むごむご、むご~」
「わかったわかった、ちゃんと報告はもらったから。ほら、リリンを連れて戻るぞ。お前たちも続けて間引き討伐を頼むぞ」
「は、はい!」
ダイバにあとを任された男たちが敬礼して散らばっていく。その後ろ姿を確認してから手を離された。
「リリ~ン、もういいって」
「はあーい」
リリンが返事をして駆け戻ってくる。リリンに魅了された人たちが頬を染めているけど、これは魔法などではないため罰せられることはない。魔人とはいえ魅了など禁止された方法で人を誑かすのは罰せられる行為だ。
無邪気な笑顔のリリンにダンジョン都市の独身男性たちは簡単に落ちた。遠巻きにして言い寄らなかったのは無言の圧による不文律があったから。そんなある日、それを破ってリリンの前に現れた男がいたことで彼らは地獄に叩き落とされることになる。
「美しいお嬢さん、一緒にお茶でもしませんか?」
「やあよ~ぉ。あ、ピピ~ン! 農園の管理お疲れさま~。エミリアがね、ピピンと合流して『でえと』しておいでって~」
「デート? ああ、今日は『ぐうたら休息日』ですか」
「うん。エミリアのケーキ、お土産に買って帰ろうね~」
ピピンの腕に抱きついて喫茶店へと向かうリリン。霞の向こうに押しやって忘れたつもりだった二人の関係を目の当たりにして、二人に惚れていた人たちは咽び泣く。
二人が私の聖魔になったときの話は知られている。リリンを逃すためにピピンが前にでたことも、ピピンが死を覚悟していたことも。そんな関係から二人はスライムの頃から恋人同士だと知られてきた。それが魔人に進化して美男美女の姿になったことで夢をみたのだ。叶わぬ夢に思い焦がれるだけでも良かったのだ。
それなのに、ひとりの男が不文律を破ったことで夢から残酷な現実へと引き戻された。
聖魔である以上、美男美女の二人を写真に撮りたくても聖魔師の自動スキルで盗撮もできない。目に焼き付けるしかできない彼らが怯えているのは、二人が白虎のように元の姿しかみせなくなったときの喪失感だろう。
そんな姿を偶然見かけた私は苦笑するしかなかった。かたわらには白虎もいて、一部始終をみていた。
白虎は獣人になっても顔見知り以外の人は苦手なため、よっぽどのバカ以外からは声をかけない。そして近寄ったバカは翌日から姿をみせなくなる。そりゃあ、遠くからみているだけの男性たちを出し抜いて近付けば睨まれて当然なわけで……。いまではバラクルとミリィさんの店、庁舎で行われる報告会では獣人の姿でいるが、出かけるときは獣化の姿の方が多くなった。
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