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第十章
第534話
しおりを挟む「エミリア、どうせ遊び足りないのだろう? 鉄剣でやり合うか?」
「魔法剣なし?」
「ああ、ただの肩慣らしだ」
ダイバがニヤリと笑う。これは集まった野次馬や地面で倒れたまま未だに納得していない冒険者たちへの模範試合だ。実際の強さを見せてこれ以上の反対意見をださないために。
木剣をしまって鉄剣を手にする。向かい合うダイバも鉄剣を手にしたまま肩を回して軽く準備運動をしていた。
「ルールは?」
「魔法禁止、もちろん魔法剣も禁止だ。時間は三分でいいか?」
「いいよ。全力?」
「周りに影響が出ない程度にしろよ」
「ほーい」
「カウント、3」
いつものようにダイバがカウントを始める。同時に鉄剣をかまえてスウッと呼吸を落ち着かせて私が次のカウントをコールする。
「にい」
「1」
「「ゼロ!」」
同時にカウントを合わせると同時に駆けだす。ダイバの一撃を身体を下げてかわすと下から鉄剣を振り上げる。
ガッキーン!
響いた音は私の鉄剣が弾かれた音。ダイバは男らしく腕力があるものの腕力だけで戦わない。竜人特有の素早さと本能で私の動きに対応して鉄剣をあわせてくる。
ガンッガンッ
どこまでも響く音は、鍔迫り合いなしの短期集中攻撃を繰り返しているからだ。
「残り、一分!」
シーズルの声が聞こえると同時に私たちは無意識にかけているリミッターを外す。全力で打ち合い、全力でかわす。
ガガガガガッガガガガッ!
すでに響く鉄剣の音は連打に近い。これでも途中でかわしているが、互いに動きを把握しているため、かわしたと同時に相手の鉄剣がお待ちかねしている。そのため迎え撃つ必要があり、『かわして終わり』ではなく不利な体勢でも攻撃できるように鉄剣をかまえていなければいけない。
「打ち合い、止め!」
シーズルの合図で私たちはぴたりと動きを止めた。鉄剣を横へ払った私と、かわした背中に回した鉄剣で弾こうとしていたダイバ。体勢を戻して頭を下げて一礼すると同時に地面にぶっ倒れた。
「あ~、つかれたぁ~」
「エミリア、何回だ?」
「え~っと~。左腕が三回、背中がかすったけど二回。でも右腕はゼロ!」
「あー、負けた。左腕がゼロ。でも利き腕が五回、あとかわしたときに脇腹一発」
利き腕に攻撃を受ければ次はない。いま私たちが使っていた鉄剣は、刃や切っ先が丸められた練習用。当たれば痛いしアザも残るが外傷はない。
そして模擬戦はステータスで負傷箇所とケガの度合いが表示される。そしてこの記録が私闘ではない証拠として冒険者ギルドに送られて残される。このダンジョン都市内では庁舎の記録でも残される。都長が立ち合うことで、この模擬戦が正当なものとして認められるのだ。
「お前ら、今日は何合打ち合った?」
「んー? 最初の二分で377合、最後の一分で783合」
「一秒で13合か。まあ、実戦前の模擬戦にしてはいい記録だな」
「お前ら…………もう少し一般常識を覚えろ」
「それ、『オーガ伝説の生みの親』が言う?」
「そうそう。年齢一桁の子供がオーガを素手で倒したなんて。俺たち、そこまで非常識ではないよなー」
うんうん、と頷く私に「どっちも変わりません」とミュレイに断言されて治療魔法をかけられた。
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