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第十章
第533話
しおりを挟む捕虜となった投降者には両手首に枷がつけられた。奴隷市の舞台で見たような、自由を奪う鎖で繋がれた手枷ではない。武器の使用や魔法など一定の制限によって封じられるものの、ある程度の自由が許されるものだ。
その枷は正規の解錠をしなければ脳が破壊される。……正規の解錠といっても、代表者が魔石に魔力を込めることで開け閉めができるというもの。ちなみに代表者は、おっとどっこい機織り女だ。代表者が私ではないのは、私が死んだら彼らは永遠に捕虜のままになるため。そして戦後に地下迷宮から出すときは手枷を外す。その采配をアラクネに一任したのだ。
「エミリアの投降者が一番多いな」
本隊の死隊は少なかった。大将という守護神がいたからだろうか。それでも五十人はいただろうか。生前は軍人だったのだろうか、何人か軍刀を振り上げていた。私の一閃で放たれた余波の『風の刃』は彼ら死兵の身体を切り刻んだ。
前衛に死隊、後衛の大将に守られた本隊の中衛は戦場で戦うことはなかったのか。数人が致命傷を負い、さらに風にのったむせるような血の臭いで手にした武器を投げ出して逃げ惑った兵士たち。彼らは戦場を知らない貴族だった。
彼らが投げ出した武器は私の進行の邪魔だったからまとめて奪い取った。……どこに? 空に。だって踏んで転んだら危ないじゃん。だから、危なくない空へと浮かびあげた。ちなみに奪っても戦利品扱いで泥棒にはなりません。捕虜の装備品も勝者の戦利品に加えられる。私が受け取ったものはあとで鋳造して鉄塊にしたら、鍛治師に渡して鍋など安全な生活道具に作り替えてもらっちゃいます。
「私が倒したのは最初の死隊と巻き込まれ、一騎討ちした大将。あとは私の実力を見誤り『相手はひとりだ!』と集団で襲いかかってきて反撃くらった連中。一部は自刃したよ、『女の冒険者なんざに負けた』ってさ」
「「「…………女々しいヤツ」」」
この世界では貴賤や貧富で差別することがあっても、男だ女だということで差別することはない。だからこの世界では娼館も男娼館もある。
そんな中で冒険者は実力主義だ。甘いのはダンジョン都市のみ。それでも毎年二桁の死者がでている。ダンジョンを、魔物を……過信と慢心を抱いて邁進していくのだ。その結果がパーティの敗走、最悪な場合は殲滅。魔物が当たり前のように死んでくれるわけがないのだ、彼らも生きているのだから。
「忘れているかもしれないが、ピピンたちも魔物と魔獣だ。ピピンとリリンの強さを、白虎の素早さと繰り出す一撃を忘れたのか」
生き延びた冒険者には現実を突きつける。
『ダイバしか遊び相手になれない』
それは実力で隊長職に就いたダイバ以外に相手ができないということだ。
ちなみに戦場にでると言って反対された私は、反対した人たちを模擬戦で地面に沈めた。
「模擬戦だから木剣にしたのに」
「これで手加減というのかー!」
「魔法を使ってないもん。言っとくけど、ほかの武器だってあるんだからね」
「だから魔法は禁止だと言ったぞ」
私に負けた冒険者たちが地面に倒れて息を切らしている。私の動きについてこられなかった結果だ。
「お前ら……。エミリアの本来の職業は魔法剣士だぞ。得意な攻撃は属性を纏わせた武器を使った接近戦だ」
近付いてきたダイバが呆れたようにいうと野次馬から笑いが起きる。私が聖魔師だという肩書きは有名だが、魔物相手の実戦ではこれもまた数の少ない魔法剣士だ。
ちなみに私がつくった、各属性の魔石を埋め込んだ魔法剣を装備しても魔法剣士にはなれない。あれは『魔法が使えない場所でも弱点になる属性の武器で戦える』ためのもの。魔法剣士なら、魔法が使えない場所でも武器に魔力を込めて魔法剣にすることは可能。そして属性を自由に変えられるため、四元素の武器を買い揃える必要はないし、壊れて買い直す必要もない。私の武器はいまも初期に買ったまま買い替えたこともない。これは魔法剣士の特性で、『実際に武器を討ち合わなければ耐久性は下がらない』というもの。魔法でコーティングしているからだ。下手をすれば木剣ですら魔法を纏わせれば戦えるかもしれない。試したことはないが、もしかすると剪定で落とした枝で『薔薇のムチ』だって可能かも…………そう、リリンの触手のように。
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