517 / 789
第十章
第530話
しおりを挟む「彼の国は魔法攻撃がメインだからこそ、接近戦には弱いですね」
「その接近戦も死隊任せだから実戦経験は乏しい。魔法を封じ込めたらあとは手も足も出ない」
「雑魚兵は放っておいてもよさそうだ」
「剣を一閃したら簡単に腰を抜かしたよ。二閃目に火を纏わせたら我先に逃げてった」
実戦直後の報告会で私たちはあまりにも弱い本隊に驚いた。私が魔法剣士として戦っても簡単に倒せる。まあ、薙ぎ払うだけで戦意を喪失する一般兵たちは二閃目を繰りだすために剣をかまえると、立ち向かうことなく背を向けて逃げ回った。そのため実際に剣を交えるのは小隊長クラス以上だ。
真っ先に大将と打ち合ったこともある。
できれば捕虜にしたいが、将の肩書きがある彼らは大人しく捕虜にはなってくれない。捕虜にできなければ殺すしかない。大将が死ねば配下も投降しやすくなるが、激昂して襲いかかってくることもある。
「国に殉ずる気か!」
「我が国を守るためだ!」
「何を偉そうに! ここはタグリシアだ。国境を越えて宣戦布告しておいて、『国を守る』だと。片腹痛いわ!」
「母国を守るためなら侵攻やむなし!」
「バカが! 職業軍人ではなく冒険者相手に刃を向けただけでなく、女冒険者にせり負けている時点で恥の上塗りをしているんだとなぜ分からん!」
言葉で戦いが終われるならそれでもいい。しかし、職業軍人ほど脳筋はいない。説得しながら打ち合っている時点で私の方が強いのだと気付けないのだ。
「死んであの世で後悔しろ! 小娘に言い負かされて自棄になって剣を振るった挙げ句に隊を壊滅させた愚かな大将だったと!!!」
接近戦、特に将校たちは生命を守る魔導具を装備している。それとは別に、肉体強化の魔導具やアクセサリーも身につけている。しかしそれにはタイムリミットがある。肉体が限界を迎えれば……
「ぐっふ……う、うう」
目の前の大将が、鍛え上げた上腕から血を吹き出す。筋肉が限界を迎えたのだ。膝をついて必死に堪えるが、呼吸が乱れていない私と肩で息をしている大柄な大将。すでに敗北は喫した。『勝敗は兵家の常』という。素直に勝者に従えばよいのだが……
「魔導具なんかで強化したところで、それはまやかしの強さでしかない。本当の強さは毎日の鍛錬で積み重ねられるもの。剣を振るうだけが鍛錬ではない。基礎体力がなければ持久戦に勝てるはずがない。冒険者を甘く見るな。魔物と対峙して生命をかけている私たちは毎日が戦場だ」
「……本当に冒険者だったのか?」
「隊を率いていないだろうが」
漲っていた血が体外に吹き出したことで、ようやく冷静になれたのだろう。しかし、すでに遅い。魔導具による反動は全身を切り刻まれる以上の痛みを伴い、筋肉が悲鳴を上げ続けてのたうち回って死に至る。
「……すまない、剣が持てない。もし情けがあるなら、みっともなく死ぬよりとどめを、頼めるだろうか」
「一般人に手をだした報いだ。ちょいと痛いが、それも一瞬で終わる」
「最後に聞かせてくれ、きみは一体……?」
「私はエミリア。ダンジョン都市を根城にしている魔法剣士の冒険者だ」
静電気の魔法を放つ。打ち合いをして汗でぬれた身体を青白い光が覆い、同時に全身が硬直し……地面に倒れた。その間、一秒あるかないか。小さな静電気は心臓を一瞬で止めた。
「ありがとう」との声が聞こえた。死出の道をたどる直前に届けられた声は静かで落ち着いていて、地面に倒れた男の死に顔は穏やかでうっすら微笑んでもいた。
77
お気に入りに追加
8,060
あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います
菜花
ファンタジー
ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。