私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第530話

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の国は魔法攻撃がメインだからこそ、接近戦には弱いですね」
「その接近戦も死隊任せだから実戦経験は乏しい。魔法を封じ込めたらあとは手も足も出ない」
「雑魚兵は放っておいてもよさそうだ」
「剣を一閃したら簡単に腰を抜かしたよ。二閃目に火を纏わせたら我先に逃げてった」

実戦直後の報告会で私たちはあまりにも弱い本隊に驚いた。私が魔法剣士として戦っても簡単に倒せる。まあ、薙ぎ払うだけで戦意を喪失する一般兵たちは二閃目を繰りだすために剣をかまえると、立ち向かうことなく背を向けて逃げ回った。そのため実際に剣を交えるのは小隊長クラス以上だ。

真っ先に大将と打ち合ったこともある。
できれば捕虜にしたいが、将の肩書きがある彼らは大人しく捕虜にはなってくれない。捕虜にできなければ殺すしかない。大将が死ねば配下も投降しやすくなるが、激昂して襲いかかってくることもある。

「国に殉ずる気か!」
「我が国を守るためだ!」
「何を偉そうに! ここはタグリシアだ。国境を越えて宣戦布告しておいて、『国を守る』だと。片腹痛いわ!」
「母国を守るためなら侵攻やむなし!」
「バカが! 職業軍人ではなく冒険者相手にヤイバを向けただけでなく、女冒険者にせり負けている時点で恥の上塗りをしているんだとなぜ分からん!」

言葉で戦いが終われるならそれでもいい。しかし、職業軍人ほど脳筋はいない。説得しながら打ち合っている時点で私の方が強いのだと気付けないのだ。

「死んであの世で後悔しろ! 小娘に言い負かされて自棄ヤケになって剣を振るった挙げ句に隊を壊滅させた愚かな大将だったと!!!」

接近戦、特に将校たちは生命を守る魔導具を装備している。それとは別に、肉体強化の魔導具やアクセサリーも身につけている。しかしそれにはタイムリミットがある。肉体が限界を迎えれば……

「ぐっふ……う、うう」

目の前の大将が、鍛え上げた上腕から血を吹き出す。筋肉が限界を迎えたのだ。膝をついて必死にこらえるが、呼吸が乱れていない私と肩で息をしている大柄な大将クマ。すでに敗北は喫した。『勝敗は兵家へいかつね』という。素直に勝者に従えばよいのだが……

「魔導具なんかで強化したところで、それはまやかしの強さでしかない。本当の強さは毎日の鍛錬で積み重ねられるもの。剣を振るうだけが鍛錬ではない。基礎体力がなければ持久戦に勝てるはずがない。冒険者を甘く見るな。魔物と対峙して生命をかけている私たちは毎日が戦場だ」
「……本当に冒険者だったのか?」
「隊を率いていないだろうが」

みなぎっていた血が体外に吹き出したことで、ようやく冷静になれたのだろう。しかし、すでに遅い。魔導具による反動は全身を切り刻まれる以上の痛みを伴い、筋肉が悲鳴を上げ続けてのたうち回って死に至る。

「……すまない、剣が持てない。もし情けがあるなら、みっともなく死ぬよりとどめを、頼めるだろうか」
「一般人に手をだした報いだ。ちょいと痛いが、それも一瞬で終わる」
「最後に聞かせてくれ、きみは一体……?」
「私はエミリア。ダンジョン都市シティを根城にしている魔法剣士の冒険者だ」

静電気スタティックの魔法を放つ。打ち合いをして汗でぬれた身体を青白い光が覆い、同時に全身が硬直し……地面に倒れた。その間、一秒あるかないか。小さな静電気は心臓を一瞬で止めた。
「ありがとう」との声が聞こえた。死出の道をたどる直前に届けられた声は静かで落ち着いていて、地面に倒れた男の死に顔は穏やかでうっすら微笑んでもいた。
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