私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第529話

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「あれ……?」
「なんだ……?」
「ここ最近……何をしていたんだっけ?」

リリンが舞っている姿を見て、目を輝かせたり鼻の下を伸ばしていた冒険者や商人たちから呟きがもれてきた。リリンはただ遊んでいるのではない。いやしの水を霧状にして廃都内にいる彼らに振りまいているのだ。美女が優雅な舞を踊っていれば、一目みようと寄ってくる。そんな彼らがいやしの水を吸い込んだことで少しずつ正気に戻りつつあった。

「負担はないみたいだね」
「ああ、ちょっと声をかけてくる」

外へと出ていったダイバがダンジョン管理部の仲間を見つけたのか、声をかけている姿が見えた。離れているため何を話しているのかは聞こえないが、ダイバに頭を下げている様子から隊長か副隊長か。そのため注意力をされているのだろう。これでアゴールがいたら、あの人は再起不能なまでに叩き潰されていたと思うと……残念でしかない。


「ピピン」
「はい、なんでしょう」

私が何を聞きたいか気付いている。それでも黙っているのは……私から聞かなければ気付かないフリをするためだろう。

「私はこれからも剣を手に戦うけど止めないで。私は戦えるだけの鍛錬は積んできたつもりだよ。ピピンたちの方が強いけど、私も一緒に戦いたい。ダンジョン都市シティのみんなを守りたい。だから……この手がどんなに血で汚れようと……お願い……嫌いにならないで」

私の頭をピピンが優しく撫でる。言外で「大丈夫」と示すように。

「エミリアが世界中の人々を皆殺しにしても、エミリアたちを召喚した国を滅ぼそうと。私たちは、契約をしていない妖精たちもキマイラやレヴィアタンたちも、エミリアを嫌うことはありません。私たちが人を殺してもいとわずにいてくれたエミリアと同じです」

開戦以降、私はすでに何十人も殺してきた。それ以上にピピンたちが瞬殺している。普段、魔物と戦う際は魔法がメインの私は後衛でピピンたちは前衛で接近戦をメインにしている。それは少しでも私が殺さなくていいように、という配慮からだ。

ただ戦場に出てくる軍は、魔法攻撃から身を守る魔導具を装備している。しかし、装備品の魔導具は魔法を完全に無効化できない。補助魔法や回復魔法まで無効化してしまうからだ。そのため隊には魔導具による結界が張られる。しかし数時間前に起きたとおり、それにも問題点はある。そして魔法が強ければ強いほど魔導具の結界は脆くなる。
魔法の威力ひく結界の強度イコール受ける被害。

問題は、被害者がどれだけいてもみんな平等に同じだけの攻撃を受ける。数人だろうと、十数人だろうと、数十人だろうと。目に見える被害の違いは、身につけた装備品の防御力の差だ。全身がチリチリと痺れる程度から、頭がチリチリの鳥の巣アフロヘアになったり、焦げてチリチリになった服がクシャミ一発でパラパラと黒い灰になって消えていくなど様々だ。
そのため、魔法を使うよりも武器に魔法を纏わせて前線で戦うことの方が多くなる。

「連中は妖精たちを手に入れようとしてる。使役して人間を殺させようとしてる。そんなことをしたら妖精たちは闇堕ちしてしまうじゃない。それに私の大切な仲間たちを連れ出して手にかけて殺した。死隊に加えられて死兵として戦場にだされて…………どれだけの人を殺させられたか」
「ええ、分かっています。彼ら死隊がタグリシア国だけでなく周辺の国を襲っていることも。襲わせる死兵にはその国の人たちを使っていることも」

そう……停止していた戦争がふたたび始まって以降、タグリシアの国境を越えた死隊は多い。その死兵だったのはダンジョン都市シティだけでなくこの国で行方不明になった住人たちだった。ほかの国を襲った死隊も同様だとタグリシア国王ルヴィアンカから聞いている。

「悪趣味だよ。死んだとはいえ見知った彼らを倒せないだろうって理由だけで、その国の人を死兵にして故郷を襲わせるなんてさ」

死兵は倒しても倒しても起き上がる。両足を失っても頭を砕かれても這いずってくる。死兵ではなく隊長たちを倒さないと進軍は止まらない。
もちろん死隊だけではなく生きた兵士たちの隊もいる。痛みも恐怖もなく目の前の人間を殺すだけの死隊を前衛で戦わせて、生きている兵士は安全な後衛で魔法による攻撃を行う。両方合わせて一隊なのだ。その数は一千人を超えている。そのうち二百人前後が死隊で構成されていた。
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