私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第528話

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ダイバが仮宿かりやどにした空き家に戻ってきたのは二時間後。遺体に関する処理をすると共に、犯人を騰蛇に預けたそうだ。

「あの男は仲間に背中を刺されていた」
「隠れて襲おうとして失敗したから?」
「襲おうとした男を止めたら殺された。ついでに焼き殺したら自分と入れ替われると思ったようだな」

ダイバが白虎たちの下へ駆けつけたら、既に手遅れだったらしい。死んでピッチピチ、出来立てホヤホヤの幽霊が逃げるに逃げられず。リリンに背を踏まれて、触手のムチで目の前の地面を抉られて身動きが取れなくなっていたらしい。………………さすがエミリア教の女王様(笑)。
本人に自供させたことで、簡単に状況が掴めたようだ。
元々、私たちが植物の調査に来たことは知られている。ただ、というかやはりというか。この魔の森の植物はサヴァーナの薬剤師に送られているらしい。

「知られるわけにはいかなかった。だからわざわざ調査を始めたことで脅すつもりでいた。様子を見てしかし相棒のステンジが魔物化させた種を目覚めさせた」

見せしめとして植物の魔物にむごたらしく殺されれば、二度と植物は調査されないと思ったらしい。

「バッカじゃな~い~? 魔物化すると知られたら、薬草だろうが雑草だろうが全種類が駆除対象になるって……究極のバカで無能で脳みそにカビか苔が生えている連中には分からないか」
「エミリアたちが男たちを瞬殺したことを知って、計画は失敗したことを認めていたぞ」
「へぇぇぇぇ。脳なしじゃなくて脳足りんノータリンだったか」

犯人と女王様リリンから死の国へく許可をもらえなかった死者は騰蛇預かりとなった。あちらには戦争のせいで新婚なのに新婚生活ができていない気の毒なシーズルが、日々の鬱憤晴らし八つ当たりをしたくて手ぐすねひいて待っている。

「それで、エミリア。外の連中はなんだ?」

干物にでもする気か? と聞かれて、私が「魔物の餌にする気だよ」と答えるとピピンに口を塞がれた。私の口にはピピンの手ではなくクッキーが入れられて、モグモグごっくんと咀嚼している間にピピンが簡潔に説明していた。
私たちが廃都に戻ったところで、男たちが取り囲んだ。女に飢えているらしい。パーティの女性たちはのため襲うことはしない。そこに外部から女が三人きた。

「三人?」
「エミリアとリリン、白虎です」

その三人を襲って性欲を処理させようとした。

「今日の天気は『ところにより一部にわか雨』だったようで。男たちの場所に大雨が降ったあとで静電気でも起きたようですね」

ピピンの言葉にダイバが苦笑する。

「暑くて脳が沸騰したみたいだったから、頭を冷やすように大量のを捨てるついでにぶっかけたんだよ。そしたらついつい無意識に静電気スタティックをかけちゃって……こんがりと焼けちゃった」
「短く」
「ずっと前から入っている操り水をぶっかけて静電気スタティックを」
「実験の成果は?」
「頭からかぶっても操れる」

操り水は直接のませなくても操れる。つまり、気体状の操り水でも効果があることが証明されたのだ。
キッカさんたちのテントを、浄化の魔法が上手く使えない風の妖精が換気で汚染を遅らせてきた。操り水の瓶を開けただけで汚染された、それが気化した水が原因だと、襲ってきた男たちが身をもって証明してくれた。

「連中の性欲には一歩お先にお休みしてもらった。火龍が言ってたよね、魅了や誘惑にあらがうには性欲を失うのが一番だって」
「ああ……相手の色気に興味がなければ、まず影響はないからな」

ダイバの視線が窓の外の光景に向く。そこではリリンが楽しそうに踊っていた。天女の羽衣みたいに長い袖をヒラヒラさせている姿は神々しく、男も女も冒険者も商人もが見入っている。
リリンの足下にはうつ伏せで並べられた男たちが動けずにいた。その姿を見ても誰も騒がない。この廃都もサヴァーナの操り水の魔の手に落ちていたのだ。
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