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第十章
第527話
しおりを挟むエリーさんは、ミリィさんの出産ということでエイドニア王国に戻っていない。ただし冒険者の学校に通っているしアルマンさんやコルデさんからの追加勉強も受けているため、私たちと一緒にバラクルの客室で過ごすことは許されていない。
「エリーにはそれが一番の罰になる」
ミリィさんがそう決めたことで、今はルーバーがひとりで店を切り盛りしている鉄板屋の二階で、アルマンさんやほかの居残り組と一緒にパーティ用テントで過ごしている。必ず誰か二人が一緒にいて見張られているようで息苦しいというものの、一度ルレインの手に落ちたことを考えると仕方がないだろう。
キッカさんたちも戦争が起きたことでタグリシア国内で待機となっている。出港は居場所を守るために武器を持って戦う勇気や大切な人たちを守る術を持たないひ弱な避難民が優先であり、守備隊出身で対人の鎮圧経験もあるキッカさんたちみたいに対処できる人たちは後回しだ。
「残るのだから手伝わせてくれ」
そう申しでてファウシスの調査などを引き受けてくれた。
「簡単に操り水の影響を受けていたけどな」
詳しくは聞いていないが、あの飲料水の瓶の中には……日本でいう寄生虫みたいなものが入っていたらしい。
「いくらアクセサリーで操り水の影響を受けないとはいえ……面白がって何本ものむか?」
そう、体内にムシムシくんを飼っていた。ピピンの話では、虫はお腹の中に棲みついて脳を操るそうだ。
「胃液で溶けたりしないの?」
「コーティング状態で腸に棲みついています。そのため、強力な虫くだしの薬を与えました。面白いくらいに苦しんでいますよ、虫も本体も」
虫が抵抗して暴れるため、キッカさんたちは苦しくてのたうち回っているそうだ。それでも虫を弱らせて体外に出さないといけないため……
「ウフフ。にっが~いお薬を調合してあげたわ」
そう微笑むリリンだけど、虫が噛み付いて傷つけた粘膜や腸壁を回復するための生薬を……ドロドロの液体状態でのませたらしい。それも薬草の匂いと味を誤魔化さず、のみやすくという配慮も加工もせずにそのまま。
「罰ゲーム、ではあるか」
《 そうそう。下調べもせずのんだ罰 》
《 ちゃんと事前に操り水のこと教えたのに 》
《 瓶の中に入ってた操り水のにおいでテント内が汚染されても気付かないんだもん! 一生懸命、換気したんだから! それなのに、また次の日にも同じもの買ってきてテントの中を汚染させて! 》
心配してついてきてくれた妖精の努力は大変だっただろう。私たちに泣いて訴える風の妖精を、ほかの妖精たちが同じように涙を浮かべながらなだめる。パーティ用のテントは広い。鉄壁の防衛は個室が八十部屋、そして共有の食堂や鍛錬場などもある。そのすべての部屋の空気を入れ替えたら、また面白がって操り水を買ってきてテント内を汚染する。
《 みんなのバカァ! 謝ったって許してあげないんだからぁ! 》
「うん、うん。みんなを頑張って守ってくれたんだよね。大丈夫、アルマンさんが静かに激しく怒ってたから全員に特訓してくれるよ」
《 コイツら、ボールの中に閉じ込めてもらう。それで私がやっつけてやるんだから! 》
怒っていても、ちゃんと優先順位は理解している。
ピピンが寄生虫に気付いてリリンが調合した薬をのませることになった。風の妖精たちは腸内殺菌を優先させてくれたのだ。その代わりに感情をどこにもぶつけることができずにいた。
「よし! 戦争が落ち着いたら連中をボールに入れるから、そうしたら思いっきり鬱憤を晴らせばいい」
ダイバ経由で通話を開いていたコルデさんがそう許可をだす。そして本人たちがテント内で苦しんでいる間に『妖精対抗大運動会』の開催が決定した。
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