私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第525話

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火龍は戦争が始まってから頻繁にダイバを呼び出す。

「私はー?」
「アゴールたちを頼む」

訂正……ダイバだけを呼び出す。
戦場の情報やエルスカントの尾根にいる竜人たちの様子を教えてくれるのだ。私が留守番なのには大きな理由がある。アゴールの出産が近かったからだ。それをわかった上でダイバを呼び出すのには伝えなければならない案件があるからだ。

「そういえば、エミリア。火龍の話だと戦場に出たらしいぞ」
「なにが?」
「『四つ目のわんこ』だ」
「じゃあ黒色シュヤーマまだら模様シャバラのサーラメーヤだね」

死者を死の国の神の元へ連れていく案内人。戦場に現れてもおかしくはない。そしてをするときは、眉にみえる第三・第四の目を開いて死者を導いていく。

「お仕事じゃないときに会いたいな」
「会ってどうする?」
「いっぱいお礼いうの。『本人の意思を無視して死隊の一員にされた人たちを助けてくれてありがとう』って」
「…………ああ、確かにそうだな」

ダイバの表情から気付いた。ノーマンたちとでていって行方不明になっている人たちのその後。パルクス国にたどり着いてから殺されたのか、死隊に加えられて戦場にでたのだろう。操られた彼らを神の前か死の国か、とにかく戦場から救い出してくれたのだ。

「ダイバ……戦争はパルクスの死隊が集まったから始まったんだね」
「ああ。神獣たちの神域が一度目の計画失敗、そして二度目の失敗は地の妖精たちが結界を強化したとき。……それがなければ、この戦争は何年も前に起きていたんだな」

神域で死隊が全滅というか、消滅しなかったら戦争が起きていたのは確実だ。それも国境を越えていた。死隊の軍団を強化されていたらそのまま王都を襲われていただろう。あのとき奴隷市に集まった死隊の隊長たちは奴隷解放軍と共に全員捕まり、騰蛇たちにより『封印されし隣国』で罪を償っている。

「死隊自体は減ったはずだが……予想以上に多かったということか」
「戦争でコルスターナを占領して、操り水で『死んだら死隊に加わって死兵になるんだよー』なんて言ったんじゃない?」
「操り水が使われているというのか?」
「サフィールが関わっているし、アウミの中の女神も関わってるでしょう? それに奴隷とはいえ、殺されて大人しく死隊の死兵になると思う? それに奴隷解放軍が一緒に行動してるけど……『奴隷から解放された人たちはどこに集められた』んだと思う?」
「…………パルクスか」

ダイバは少し考えてから重くなった口を開いた。
ここプリクエン大陸はタグリシア国と北部のアルジオキス国、そしてパルクス国が港をもっている。国外に逃がすといって集められた彼らが船に乗せられて……行き先は?

「それがぺジリアーノ大陸で妖精たちがみた死隊か!」
「奴隷解放軍と『奴隷を解放してよその大陸へと送り届ける』というパルクスの話は嘘ではない。その先で死隊にされたとしても約束は守られている」
「そして、船には操り水が飲料水として配られていれば……」
「操られた人たちの出来上がり。そして自ら死んで成仏することなく死隊の兵士が生まれる。手を下したわけではないから罪に問われない」
「……これはシーズルに話すか」
「わんこは?」
「あー、……火龍からの情報だと耳に入れておくか。死隊の消滅に関わっているからな」
「神の眷属とでもする?」
「そうだな。いまは具体的に話すよりはいいだろう」
「知られていないから?」
「じーさんたちは知ってるようだが。まあオヤジたちにも確認してからだな」

私たちの話し合いによる内容はダイバからシーズル、そして報告会で上層部の職員に話される。ダイバとシーズルが相談の上で報告会に出さないこともある。私とダイバだけで話を置いておくこともある。

すべての情報を開示するのは混乱を引き起こすこともある。聖魔士ギルドに使役された神獣の一件もある。もしものときは聖魔師テイマーの私が何とかできると期待されても困る。情報に関して私の一存で決めるのではなく、ダイバそしてシーズルという二人のフィルターを通してから公表することに、誰からも異存はでなかった。
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