私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第524話

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私の足下で、黒い煙を吐き出して急激に萎れていくのは赤茶色の花。元の色はみていない、だってこれは……

「エミリア!」

ダイバが慌てて魔導具の結界を解除して私を引き寄せる。戦闘になる場合、いまの結界では狭すぎるから。しかし花は枯れ、葉は黒ずみ、炭化している長く伸びた茎の先はピピンが注意を促した男がいた場所へと伸びていた。
すでにそこには厳しい表情の白虎が立ち、足元には男だった者が倒れているのがみえた。スッと目をダイバの手が覆う。

「みなくていい」

ダイバは過保護だ。私が人間相手に手を下すことも、死者の姿をみることも嫌う。すでに覚悟はしている。ううん、私の称号に『神に代わりバツを落とす者』がある以上、正当性のある殺害なら私は罪にならない。

今のは『使役していた植物が死んだため使役する術者も死んだ』もので、呪い返しと同じ状態だ。魔法と違い呪術の場合は、失敗したら何倍にもなって術士や術師の身に返る。その呪い返しから少しでも身を守るため、術者たちは『人形ヒトガタ』をつくる。人の形に切った紙に自分の名を書いて息を吹き込んだ人形ヒトガタは、術者の身代わりとなる。

ただし、人形ヒトガタが身代わりになれる範囲には限界がある。
一体に対し最大で一死。最大であって確実ではない。そして呪い返しは何倍にもなって帰ってくるため一枚では役に立たない。私は毎日最低でも一枚、人形ヒトガタをつくってきた。いま、私の人形ヒトガタは五千枚を超えたところだ。

ただ人形ヒトガタだが、どうやらこの大陸はダンジョン都市シティ以外では知られていないらしい。

それに気付いたのは、エリーさんが巻き込まれた呪い騒動の一件だった。即死の呪い返しで必要になる人形ヒトガタは最低でも二千枚。即死の呪術だけで百五十枚から二百枚が必要となる。呪術の怖いところは結界など通り越して確実に狙える点だ。そのため、人形ヒトガタは術者にとって必須なのだ。
そして結界では防ぐことのできない呪術が……いま地中から結界内に入りこんできた。

「エミリア。今日はここまでにしましょう」

ピピンが私の前に立ったことで、ダイバが目を覆っていた手を離してくれた。私はゆっくりと深呼吸をして、結果的に殺した男を思い出す。操り水の支配下にいたようにはみられない。私が踏みつけた花にひと瓶かけたのは、いやしの水だったのだから。

「地術師、だった?」

絞りだしてかすれた私の声にピピンが首を左右に振る。

「術者ではありません。ダイバ、調査を願います。私たちの方でも襲われましたが、地の妖精とリリンが瞬殺しました」
「わかった。ピピンはエミリアと妖精たちを中へ。リリンと地の妖精と白虎を借りるぞ」

ダイバがピピンの肩を叩いてから白虎のいる方へと歩いていく。同時に妖精たちが戻ってきた。

《 エミリア~。いまやってた調査の報告するねー 》
「何か効果あった?」
《 あった、あった! だからエミリアに聞いてほしいの! 》
《 エミリアの意見も聞きたい 》

ワイワイと話をしながら廃都の門へと向かう。妖精たちは私に見せようとしない。それでも植物の花を踏んだときに……いやしの水をかけたときに呪術を返した感触はあった。私があの男を殺したのか瀕死にしている。
それでも私を死の闇から守ろうとしてくれることに申し訳なくなる。
この世界は正当防衛も反撃も許される。それによって相手が死のうとも。「死にたくなければ手をだすな」ということだ。

戦時下にあるこの大陸では、敵味方関係なく殺生をしても罪にはならない。巻き込まれたくなければ大陸から逃げだすしかない。
私は戦争が始まったと聞いてから戦うことを決めた。直接武器を持って戦うことはないだろうけど、魔法で殺すことにはなるだろう。
大切な人たちを守りたい。そのためなら、生命をかけるのを躊躇うようなことはしない。
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