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第十章
第517話
しおりを挟むファウシスから帰って二日後、第一陣にあたる五百人が王都に到着した。大半が冒険者たちだ。
「情報部の話では治療院の職員がいやしの水をのませたらしい」
「操り水の影響が少なかったか、元々のんでいなかった人たちだっけ」
町長の屋敷を失って、飲み水だった操り水も失った。しかし、屋台や商人はステータスから送ってもらえる。しかし、それを妨害したのはジャミング効果をもつ魔導具。元々は魔法によるケンカが行われないように町や村に設置されているもの。ファウシスはその魔導具を起動させていなかった。……潜入していたサヴァーナ国の工作員がファウシスを掌握するために兵士になっていたらしい。
「レイという名の工作員が自供した。連中は五年かけてファウシスに入り込んでいたらしい」
「そのレイとやらは信用できるのか?」
「ああ、ピピンが作った操り水で自供させた」
シーズルからピピンの話を聞いて納得する職員たち。ここで実際に操り水がどんなものかを披露したことから信じてもらえたようだ。それに職員たちがピピンに向ける信頼は大きなものだ。
「そのうちピピンを都長に、という声があがるかもしれないな」
「お断りします。私はエミリアの聖魔、エミリア教の教祖以外に興味はありません」
ここで私を含め全員が気付いた。私が望んだことをピピンは叶える。そんなピピンが都長になれば毎日がお祭り騒ぎになるだろう。
「それはそれで楽しいかも」
「いまでもそう変わらん」
私とダイバの意見に、シーズルは自分の発言を撤回した。
「操り水を売っていた商人たちはどうした? プレゼントや購入ができなくなったのだろう?」
「連中だったら数人が仲間に在庫一掃セールをおこなって、ファウシスからでていったよ。直接買いにいったんでしょ。魔導具が元の機能を復活させたから、ファウシスから馬車で半日離れないと通販機能が使えないし」
「それでは戻って……あ、魔導具が回復したからファウシスの中へ戻れない?」
「また誰かが停止させるなんてことが起きるんじゃないか?」
その点はシーズル経由でピピンがルヴィアンカから任命された。
「魔導具の登録者となり悪用を防ぐように」
城門の魔導具を交換する際、設置登録者が必要となる。ダンジョン都市の城門に設置された犯罪者の侵入を拒む魔導具の設置登録者は当時都長だったヘインジルだ。そして毎年都長が登録者を変更することで都長の引き継ぎが行われていく。
そして設置登録者以外に、取り外すことも設定を変えることも停止させることもできない。ファウシスには前町長から自称町長への引き継ぎがされていないことは、保護されたレンドラの父親バルドルに確認済みだ。
「通常では前の魔導具を設置したまま新しい魔導具を設置することはできません。ですが、設置登録者が不在で魔導具自体の機能が低下した場合は新しい魔導具が設置できます。その場合は新しい魔導具の機能が優先されて、前の魔導具は起動していても効果はありません」
バルドルの説明を聞いたピピンは城門の見えにくい場所に魔導具を設置すると、前の魔導具は休憩に入った。新しい魔導具は結界機能もついている。ピピンはその結界内に前の魔導具が入るように設置したため、魔導具を取り外そうとしたレンドラを拒絶した。
「先に設置されていた魔導具の効果を妨害する魔導具が城門で見つかりました。その魔導具の魔石はすでに弱まっていたためそのままにしてあります。これで新しい魔導具が設置されたことに気付かないでしょう」
その魔導具は結界の外にあるため新しいものと取り替えられるだろう。そうなってもいま設置されている魔導具は、ダンジョン都市の魔導具職人とポンタくんたちの職人との共同開発されたもの。世界最高技術で生み出された努力の結晶は、どんな妨害にも屈することなく住人たちを戦火から守られるだろう。
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