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第十章
第509話
しおりを挟むエルフ族はハーフエルフを『森の牢獄』に閉じ込めるという。人間より長寿ということで悪事を働く者が多いからというのが理由だ。
「ちゃんと迷惑をかけずに生きているハーフエルフだっているのにね」
「エリーの話では、今は無闇矢鱈に牢獄に入れることはなくなったらしいです」
「そりゃあね。罪を犯す可能性があるってだけで閉じ込めるんだったら、エルフ族を全員閉じ込めなきゃ、だよね。将来、ハーフエルフが誕生する可能性があるんだから」
究極な意見だろう。しかし、エルフ族の言い方はそういうことなのだ。主にエルフ族と人間の組み合わせが多いものの、ドワーフ族などとのハーフもいる。ハーフエルフという言葉にこだわっているのはエルフ族だけだ。
「だったらさあ、エルフがいなくなれば問題ないでしょ!」
ドワーフ族とのハーフの女の子は「ハーフエルフが何でここにいるの⁉︎」と言ったエリーさんにその子は言い返した。
「私はハーフだけどドワーフ族よ! お母さんがエルフ族だけど、そんなこと関係ないわ!」
その通りだ。彼女は父親がドワーフ族で母親がエルフ族。よくある異種族間結婚であり、それで差別を受けたこともない。それを突然「ハーフエルフだな。エルフ族のルールに則り、森の牢獄に封じ込める」と言われて受け入れるはずはない。
「エリーさんはエルフ族だからハーフエルフってこだわるんだろうけど。彼女はドワーフ族のハーフ。エリーさんの言い方なら『ハーフドワーフ』ってところね。だからってエルフ族のルールを強要するの? エルフ族って異種族間の結婚を認めない、心の狭い一族なんだ。だったら一族で住んで外にでなければいいじゃない」
私がキツい言葉でハーフドワーフの味方をする。そのときはダイバたちもエリーさんに敵対する立場をとった。まだ魔人化していなかったピピンとリリン、妖精たちからもエリーさんは敵にみられた。エリーさんはショックで泣き顔になったが、私は言葉を続けた。
「エルフがいるからハーフエルフが誕生するんでしょ。だったら原因になるエルフ族が表舞台から消えればハーフエルフだって生まれない。それのなにが問題? 共存する気がないし、ハーフの存在を認めないんだったらそれが当然だよね」
エリーさんはムルコルスタ大陸に戻ったときに故郷のエルフの里でその話をした。もちろんエルフ族は長寿種族ということで私たちを馬鹿にして話にもならなかったらしい。しかし、直後にハイル・フリンク・ベイルの三人が奴隷として買われたとミリィさんから知らせが届いた。駆けつけたエリーさんから間違いないと確認された。そして頭の固い者たちが三人の身柄を回収するために里を出た。恐ろしいことにそれが許されると本気で信じていたらしい。しかし、奴隷にはならなかったものの数々の無礼行為によって十年に及ぶ労働によるハイルの借金返済を共同で返済するように命じられ、それに従うしかなくなった。
帰ることができなくなった仲間たちの存在は、残された者たちの考えを改めることにつながった。自分たちの行為が、ほかの種族との共存を阻んでいることに気付いた。ハーフエルフの存在ではなく自分たちに問題があったと認めたのだ。
そんな騒動が起きたこともあり、罪を犯した者のみを森の牢獄に。ハーフエルフという理由だけで投獄されていた人たちは解放された。
「もちろん謝って許されることではない。しかし、二度と同じ間違いを繰り返さないと誓う」
そう言ったエリーさんはドワーフの少女に頭を下げた。少女と家族が許したことでエリーさんはダンジョン都市に変わらず入ることが許されている。
それでもエルフ族に対して白い目で見られていることに変わりはない。
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