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第十章
第506話
しおりを挟む「それで、向こうはどうなっている?」
「ピピンに任せてあるから大丈夫。宿に帰る? 経過報告に来てもらえるよ」
建物はリリンたちが騰蛇に預けた。というのも、レンドラの屋敷の地下に弱った人たちが閉じ込められていたからだ。
「私さ、町長一家の話を聞いたときはすでに国外に移されたと思ってたけど……。そばに置いて弱らせて苦しませて操って、楽しんでいたんだね」
「ああ、まるでばーさんの妹みたいな奴だな」
ダイバは思いっきり不機嫌そうに表情をゆがめた。でも、いまリマインたちが知っていることは
「ギリギリと全身を絞って聞きだします」
……笑顔のピピンにその擬音の意味を知りたかったけど怖くて聞けなかった。隣にいたダイバが少し青ざめながら「俺たちの方も聞きたいことがあるから、殺さずほどほどにな」というのが精一杯だった。
「本屋だけではなかったのですか?」
シーズルも一時的に騰蛇が預かることに文句はなかった。ただ……思っていたより規模が大きかったため愚痴を言いたかったのだろう。物理的にも精神的にも。しかし、その一端に自分の祖母の存在があると知って厄介ごとを引き受けることにした。それが祖母のためになるからだ。
そしてリリンが眠らせて建物ごと連れてきた連中をダンジョン都市に入れる気はない。罪を犯しているであろう彼らは入ることもできないが。
ピピンが眠っている彼らに操り水を飲ませる。そして言った「逃げることは許さず。死ぬことも認めない」と。竜人かどうかわからない。竜人なんだろうけど、竜人としての知識は欠けている。そんな彼らがこの先、騰蛇が管理する結界の中に移されて暴れられるのは迷惑。そのため、真っ先にその芽を摘むことにしたのだ。
「仕方がないじゃん。気を大きくした契約相手が『丸ごとやろう』って言っちゃったんだから。ねえ、ダイバ」
「ああ、まさか相手も町長の家を中心に庁舎、兵舎に鍛冶屋。町長の家の反対側にある本屋。その一帯が一つの植物でできた建物だなんて知らなかったんだろ」
リリンたちが本屋を移動させようとした直前に騰蛇が止めた。そしてよくよく調べたら『一本の朽ちた木を土台にしてその上に建てられた』ことが判明した。そしてピピンが契約書の不備を見つけた。
「ここに『本屋を丸ごと』とあります。この本屋は一本の木の上に直接あり、床はここ一帯の建物と共有しています」
「つまり、本屋丸ごとってことは……」
《 床で繋がってる建物全部! 》
《 建物の地下にいる人たちも! 》
「「は、ああああああ⁉︎」」
妖精たちの言葉に私とダイバが素っ頓狂な声をあげた。弱っているため話せないそうだが、彼らは操り水の影響下にあると思われた。
《 十七人いる。中には小さな子もいるよ 》
《 シーズル、治療院にいれる? 騰蛇が封印の中で預かってもいいって 》
「治療院に十七人は無理だ」
「いやしの水はそこで飲ませたほうがいいでしょう。エミリア、少しの間離れます。町長一家、そして本屋の家族もいる可能性が高いでしょう」
「宿屋のオヤジがいうには町長一家の行方不明は九人。あとは本屋と鍛冶屋の家族か」
「あと、雑貨屋の家族」
「雑貨屋って、二日目に入ったところか?」
いらないからタダで渡す。そんなのを正規の商売人がするはずがない。その人にとってどんなに価値がなかろうと、誰かにとっては価値があるかもしれない。『タダより高いものはない』のだ。
「本当の家族だとしても商売人ではあり得ない。それに彼女は店員であって店主ではなかった。店内に並べられた『価値のないもの』に値段が付いていたのは確か。店主が……多分親だろうけど、商品を無料で引き渡したと知って喜ぶと思う?」
「じゃあ、エミリアは親も地下で囚われているというのか」
「あそこまで好き勝手ができるのは親に叱られる心配がないからでしょう?」
そして兵士が来なかったにもかかわらず、ダイバと取り引きしたことを知っていた。話したのはあの店員以外にいない。
「操り水が効かず、歯向かう店に手の内のものをいれる。じゃあ、邪魔とみなしたものは? ただ、宿は閉めることはできない。代わりの者を入れるのも難しい。だから監視されているんだと思う。だったら、監視されない店は『監視する必要がなくなった』ってことだよね」
別に操り水だけが人の心を操る方法ではない。あの店員はダイバに色気で誘惑していた。だったら、顔のいい兵士に色気で迫っていてもおかしくはないだろう。そして、逆に囁かれて饒舌になった可能性はある。
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