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第十章
第502話
しおりを挟むダイバも私もピピンや妖精たちも本は好きだ。それがダイバに漢字の勉強をさせたし、妖精たちも知識を得ることが自信に繋がっていった。
「…………お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「どうした?」
人がいるからダイバを『お兄ちゃん』と呼ぶ。それはファウシスに入る前に決めたこと。それでオボロさんに「ダイバだけズルい!」と言われた。「オボロさん、お兄ちゃんらしくない」と言ったら、本気で泣かれた。今度また、ボロボロにしてもらえるようにとダイバ経由でコルデさんに頼んだら喜んでいた。アルマンさんはキッカさんたちに特訓をするそうだ。
寄ってきたダイバに「これ」と言って本をみせる。表紙にあったのは『世界の歴史』。そう、ダイバのお祖父ちゃんたちが私にくれたもの。もちろん漢字も使われた本だ。この書棚には漢字が含まれた本が揃っている。
「おやおや、その文字が読めるのかねえ」
背後から聞こえた声にダイバが一瞬反応しかけた……攻撃の方向へ。気配がしなかったのだ。
「あのね、お祖父ちゃんたちが、この字の研究か何かをしてたんだって」
「おお、漢字研究か。ここにあるものは全部そうじゃよ」
「この本ね、私も持ってるんだよ」
ほら、といって取り出した本。日本だったら本屋で本をだす行為は万引きに疑われる。しかし、使用感たっぷりの私の本を万引きされた本だとは言わないだろう。
「おお、これはすごい!」
「でもね、この本を持ってたお祖父ちゃんたちとはぐれちゃって……。ね、お兄ちゃん」
私の呼びかけに「ああ」といって祖父母の絵姿をカバンから取り出して店主にみせる。これはフーリさんが持っていたものだ。
「……セイリア? いや、セリシアの方か? こっちはランディ、ってことはセシリアか」
「……祖父母だ。祖父はランディ、祖母の名はセシリア」
「じゃあ、お前たちはバラクビルの竜人か⁉︎」
店主はお祖父ちゃんたちのことを知っているらしい。ダイバたち一族が狙われた理由に関して、何らかの手がかりをもっているのだろうか。
「そうか。そんなことが……」
「お祖父ちゃんたちのこと、知ってるの?」
「ああ、幼馴染みだったよ」
「お祖母ちゃんのことも?」
「ああ、セシリアたちはそっくりな姉妹だったよ。違うのは性格だな」
長女セイリアは真面目な性格で優しさも兼ね備えていた。そしてシーズルの祖母でもある。
次女のセシリアはそんな長女を慕う、大人しく勉学に秀でた才女であった。彼女がダイバのお祖母ちゃん。
三女はセリシア。可愛らしさと天真爛漫な少女で、誰からも愛されていると自負していたらしい。
「あー、何となくわかった」
「原因はじーさんか」
私たちの会話に店主、リマインさんが苦笑する。三姉妹の性格を話しただけで理解した私たちを面白がっている。
「お祖父ちゃんを巡って取り合ったんだね。で、セイリアさんは優しいから身を引いた。きっとお祖父ちゃんが好きなのは自分ではないって気付いたんだね」
「それで自意識過剰の末っ子は『自分が選ばれる』と思い込んで胸を張ってたが、じーさんが選んだのは次女のばーさんだった」
「あれだよね。可愛い外見だけ整えて、知識を補う努力を怠ったことが見向きもされなかった理由だね」
「可愛さや美しさなんか、成長したところで枯れるだけだ。知識が足りないから見かけで補おうとする。そんなことしている暇があったら、ちょっとした知識でも手に入れろって」
「なんでさ、そういう見掛け倒しの連中って一律バカなんだ? 骨に肉くっつけて皮を張っただけの親からもらった外見を磨くだけで、知識や教養などの内面を磨いて輝く努力をしないのかな。アタマ空っぽな人って、結局は知恵が足りないから身を滅ぼすだけなのに」
それでわかった、なぜダイバたちの住んでいたところが襲われたのか。その理由に三女が関わっている。
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