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第十章
第496話
しおりを挟む「リ~リ~ン~?」
「でてこい」
「あら、バレちゃった」
与えられた部屋に入った私たちは、部屋の鍵をかけるとベッドに腰掛けた。ダイバが窓側なのは侵入者対策だ。
「ウフフ」と微笑みながら現れたのはリリン。ぽんぽんと隣を叩くと素直に座る。
「変だと思ったよ。エミリアが『涙石から出てくるな』と言ったときに抵抗しなかったことも、その前の妖精たちが素直に涙石に入ったのも」
「そういえば、いつもならダイバに何か言い残して入るよね」
「こうして、エミリアが契約していない奴らを置いていったんだ」
そう言って、胸の内側に手を突っ込むダイバ。するとポンッと乾いた音がして妖精たちが飛び出した。その数三十。
「え? なに、これ」
「新しい魔導具らしい」
《 何で気付いたのー! 》
《 まだ公開してないのに 》
「そこ、窓によるな! 結界を張ってないんだぞ!」
叱られた妖精たちが慌ててベッドの下に潜り込む。……こうして隠れてきていたのだろう。でもどっちにくっついてきた? 私たち? それともオボロさんたち?
私が考えている間に、ダイバが魔導具を取り出して起動させた。ダイバが使ったのは地の妖精たちが使った『地の大結界』をイメージした結界の魔導具。宿の部屋など四角形のところに使う、ドワーフ族の職人たちによる新作だ。冒険者なら宿の部屋に結界を張るためおかしな行動ではないだろう。
「エミリアの装飾品と違い、たいていの魔導具はまず試作品を作る。それを試用するのが俺たちだ。安全確認のためにダンジョンに入って実際に使って試す。結界の魔導具も、この収納庫も何度か見ているぞ」
《 それで知ってるのかあ 》
ダイバたちはダンジョンの管理のほかに魔道具の使用をしているのはアゴールから聞いた。私の結界のアクセサリーをドワーフの職人たちが腕輪で作っているのもレシピ使用料で知っている。
「それで。おまえたちがくっついてきたのは、俺たちかアニキたちのどちらだ」
《 ……私は馬車。でもこの子たちは違う 》
《 私たち、ここに住んでいた 》
《 でもおかしくなったから『外に出る人たち』に隠れてくっついてでた 》
《 外で妖精の気配したから合流した 》
話し方が辿々しい。まだ一緒になってから日が浅いのだろう。
《 外の様子が分からなくて残った子たちがいる 》
《 だから迎えにきた 》
「それでこっそり俺の服に隠れたのか」
《 ごめんなさーい 》
妖精たちが全員並んでダイバに頭を下げる。その数、八十を超えている……
「何で増えているの⁉︎」
「そこだ、そこ」
ダイバが指し示すのはリリン。リリンがマットに手を置いているだけにしか見えない。…………前屈してマットの下を覗く。ツタがマットを通り越して、それが廊下に伸びている。
「そういえば、ここの宿って木造だったね」
リリンの属性は植物。そしてダイバが使ったのは地の属性の結界の魔導具。
「堂々と、結界を張ってから始めたぞ」
「それってピピンのアイデアでしょ」
「あ・た・り♪」
冒険者が結界を張ったあと、何か起きても解除するまで身の潔白は確定される。
「カウンターに『宿内で結界を張ればわかる機能が付いている』と注意書きが書いてあった。部屋に入った人数もチェックされている」
「記録は残されてた?」
「そうねえ。……あったわ、ここは三番ね。『兄と妹、夕食あり。入室および結界確認十四時』って書いてあるわ」
リリンは建物に使われている木材を通して宿帳らしきものを覗いたらしい。これができるのも、この町の建物は地魔法で建てられたのではなく石や木を使って建てられたからだそうだ。ちなみにダンジョン都市は地の魔法で作られたもの。その方が大地からの魔力を受けて強化されるからだそうだ。
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