私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第495話

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「町長が結婚してなあ」

料理をしながらファウシスの現状を話してくれる店主。
おかしくなってきたのは、今の町長レンドラが見知らぬ女性を侍らせ始めた頃。当時はまだ『町長から期待されていない息子』という立場だったため誰も気にしなかった。というのも、当時の町長は三十代後半、次期町長に相応しい息子が三人。今の町長は相応しいとは思われていない。

「仕方がないさあ、レンドラは実子じゃあないんだよ」
「そのこと、本人は?」
「もちろん知ってるさあ。町長に預けられたのは九歳だったからなあ。町長も後継者は二人いたからいいと思っていたんだろうよ」

しかしそれは大きな間違いだった。レンドラは自分が引き取られたのは次期町長に相応しいからだ、と見事な勘違いをしていた。そのため、成長するに従い、自分は期待されてもいないこと。
自分は養子として引き取られたわけではなく、実の叔父から生活費を賄ってもらって預けられているだけだと知ったのは十歳。この町の学習院に通いだしたときだ。

「保護者が町長の名前ではないことを知ったんだよ」

保護者は引き取りを拒否した叔父の名、自分も平民のまま名前は変わっておらず、町長の家族名ファミリーネームはない。
叔父が引き取りを拒否した理由は簡単だ。警備隊の彼は宿舎で生活しており、レンドラを引き取れる環境ではなかった。さらに彼には結婚直前の恋人がおり、新婚家庭にを持ち込みたくなかったのだ。

「こいつは周知の事実だ。レンドラの家族は毒殺だが、最終的に犯人は不明で決着した。レンドラの嫉妬による殺害が濃厚だ。しかし、捕まえたとしても子供ということで罪には問えん」
「孤児院は?」
「レンドラの悪影響を受けるだけだ」
「成人したら追い出せばよかったのに」
「そいつが出来なかったのさあ」

成人直前のある夜に、町長たち一家が行方不明になった。町長夫妻と長兄夫妻、次兄夫妻と男児と女児。そしてレンドラより四歳下の三男。

「町を出た記録もその姿を目撃した者もいない」

そして気づいたらレンドラが町長になっていた。結婚したのは数ヶ月前のことらしい。

「もちろん町長就任に反対していた者も多くいたが……気付いたら町長就任容認派になっていた」

だされたサラダトーストを咀嚼しながら話を整理して嚥下する。

「美味しいトマトだね」
「ああ、野菜がシャキシャキだ」
「ありがとう。別の大陸に住む親戚が作った野菜さあ。毎日新鮮なものを送ってくれるんだあ」 
「今日の夜は?」
「煮込みさあ」

扉が開かれると厨房から美味しそうな香りが漂っている。シチュー、ボルシチに近いだろう。

「美味しそう」
「美味しそうじゃなく美味いのさあ」
「美味い! だって!」
「分かった、分かった。夕飯ユウメシを二人分頼めるか」
「よし、二人分だな。時間は十八時からだ」

…………何か、さっきからおかしな気配がする。

「扉が開いては閉まっているな」
「警備兵のようだが、入ってきてそのまま出ていってるようだ」
「よくあることか?」

店主は「いいや」と言いながら首を左右に振る。因縁をつけてくることはあるが、何もしないで帰ることはないらしい。

「珍しいこともあるもんだ」

店主が不思議がっているが、それについては私もダイバも心当たりに気が付いていた。
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