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第十章
第490話
しおりを挟む「それじゃあ、こちらの報告だ」
アルマンさんがファウシスの城門近くで様子をうかがっているキッカさんたちの報告を始める。キッカさんたちは、操り水がどう使われているかを調べるために数回ファウシスに入ったそうだ。
「安心してもらっていい。俺たち鉄壁の防衛は、どんな症状も効かない『毒素中和効果』のアクセサリーを装備している。恥ずかしいことに、一度は操り水の影響を受けた経験を持っている連中だ。そのため、操り水の危険性を熟知している」
その言葉に誰もが瞠目する。ベテランと思しきパーティが操り水の影響を受けたことがあるという。操り水の危険性は目の前で確認したばかりだ。
「待ってくれ、それは本当なのか? 君たちみたいにベテランの冒険者が」
「そのアクセサリーというのは本当に大丈夫なのか」
「……ああ、本当だ。エミリアさんは覚えていないだろう。まだエアさんだった頃に、交渉で王都にきていた他国のバカが女性を追い回して好き勝手していた。当時エアさんは馴染みの宿があったが、連中の目に止まると宿の家族に危害を加えられる恐れがあった。とくに喫茶店も併設されていてな、営業妨害されかねんかった。それで鉄壁の防衛の住処で預かっていたことがある」
「その頃ほとんどの連中が操られたときに救ってくれたのが、エミリアちゃんが作ったいやしの水だ。さっきは短時間だったから影響は小さかっただろう? しかし、あのときは何日も操られていたからな。正常に戻ったときには自分の異常行動と深い後悔が押し寄せた。中にはエミリアちゃんに後ろめたさもあって顔をみられない奴すら現れた。……それで関係がギクシャクしてしまい、結局エミリアちゃんは研究室に閉じこもってしまった。エミリアちゃんは精神や神経をギリギリまで削って、今後同じことが二度と起きないようにと、いくつもアクセサリーを作って……いなくなった」
誰も声をだせない。コルデさんとアルマンさんは、自分たちのせいで私が記憶をなくしたと後悔しているし、ダイバたちは私が精神的な疲労で記憶をなくしたことを知っている。
《 で、エミリア本人はどう思ってるの? 》
「んー? そのアクセサリーを回数限定で作ったら……ガッポリ丸もうけ?」
「……おまえなあ」
「だって~。覚えていなくて、思い出せないなら、気にするだけ無駄・ムダ・muda・MUDA・む~~~だ!」
「……ああ、お前はそういうやつだよ」
妖精が重くなりかけた空気を変えるために普段の口調で聞いてきた。そのため明るく答えると、ダイバがいつものように相手をして頭を撫でてくれる。その様子にアチコチで妖精たちが吹き出すと、だんだん笑いがもれて大きな笑いに変わった。
ファウシスに向かった人たちは、全部の屋台で購入した料理を城門外の馬車へ持ち帰って調査したそうだ。
「結論から言うと、屋台で購入した料理すべてに操り水が含まれていた。そして飲み水も購入したが、これも操り水だった」
住人たちに操られている自覚はなかった。もちろん誰が主体で行っているかわからないため、いやしの水を飲ませて正気に戻すのは得策ではない。
「これがファウシスの町長の音頭で行われているなら、全員を人質に取られている状態だ」
そして後発隊として五人が乗合馬車で向かっている。
「先発隊は疑われているからな。後発隊は王都から出発させたから数日でファウシスに到着する。『冒険者らしくハメを外せ』と言ってあるが、連中の起こしたトラブルはダンジョン都市とは一切関係ない。俺たちが所属するエイドニア王国にも説明をして了承済みだ。冒険者ギルド曰く『自国と勝手が違うようですね。ですが冒険者とはそういうものですよ』で済ませるそうだ」
「それで大丈夫なのか?」
「ねえねえ、聞いて。その冒険者ギルドのギルド長ってね、ダイバの一番上のお姉さんなんだよ」
「うわっ! バラすなよ、そんなこと」
私が笑ってそう告げるとダイバが慌てて私の口を押さえる。
「「「じゃあ、どうとでもなるか!!!」」」
「おい!」
何も知らない人ではない。きっと味方になってくれる。
会ったことのない遠い国の冒険者ギルドに迷惑をかけてしまうことに躊躇していた職員たち。しかし相手が『ダイバの実姉』というだけで信頼したようだ。それもダイバがこの都市で培ってきた絆があるからだろう。
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