私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第473話

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「エミリア、大変なことが起きているわ」

騰蛇と共に地下で生気を失っていた死隊の指導者たちと奴隷解放軍を廃国に移していたアラクネが、手紙の解読をしていた私とダイバの前に現れた。

「アラクネ? 何があったの?」
「騰蛇様と廃国にいたんだけど、の」
「人? しかし封印されているから入ってこられないだろ? だいたい、時間の流れが違っているはずだ」
「時間の流れは元に戻っているわ。それが緑豊かな大地に生まれ変わっているの」
「いや、それだと……」
「ええ、呪いの存在になった妖精の心が癒されたことになるわ」

それはそれで問題なのだ。妖精が、ではなく廃国の存在自体が、である。緑の大地をどの国が手に入れるか。それによって繁栄に大きく変わる。

「妖精のたまごは回収できたわ。これであの国の妖精は、全員が無事に解放されたことになる」
「それはアラクネたちが見守るんだな」
「ええ、それに関しては」
はなんだ?」
「あの中にいる人間たち」

アラクネの話では『普通に見えるけど普通じゃない』人間だという。

「それは俺たちみたいな種族ってことか?」
「いいえ違うわ。間違いなく人間。死体でもなく、あの国で消された国民でもない」
「騰蛇はなんて言ってる?」

私がそう聞くとアラクネは黙ってしまった。さっきまでダイバとポンポン会話してたのに……? それにはダイバも困惑しているようだ。いつもならダイバが冷たくあしらわれるからだ。

「アラクネ、言わないとわかりません」

ピピンが何か事情を知っているようにアラクネを促す。……こういうときは私が絡んでいて、何か傷つく内容だということだ。

「エミリア、騰蛇様が……」

ここまで言ってアラクネが口を閉ざす。誰も何も言わない。私は話し出すまでアイスティを飲みながら手紙の解読に取りかかった。ダイバもアイスコーヒーを飲みながら解読に頭を回す。
しばらくしてからやっと動きがあった。アラクネが繰り返し深呼吸をしてから口を開いたのだ。

「二人とも、よく聞いて。あそこの中にいたのは……」



ダダダダダダッとけたたましい音を立てて、庁舎内を駆けているのはダイバの妹シエラ。バンッと開け放った会議室にはすでに多数の人たちが集まっていた。一斉に向けられた視線にシエラはすぐに冷静になり頭を下げる。

「すみません、お騒がせしました」
「いいのよ、シエラちゃん」

そう言ってシエラを抱きしめるのはノーマンの母親。

「お義父とうさん、お義母かあさん」
「ありがとう。いまでもそう言ってくれるんだな」

こうして顔をあわせるのは、ノーマンが家族を残して去ったとき以来だから何ヶ月ぶりだろう。それでもシエラが二人の呼び方に変わりはない。

「シーズル、これで全部?」

「全員?」
「ああ、そうだ」

新都長になったシーズルの訂正に素直に言い直すと満足げに頷いた。へへへ、チョロいチョロい。

「だって。ダイバ、説明は?」
「いらんだろ」
「だって」

私の言葉に会議室の床から金糸が現れて、その場にいた全員をひとり残らず地中へと飲み込んだ。
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