私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第十章

第468話

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二国で始まった戦争の影響は、ダンジョン都市シティが属するこのタグリシア国にはない。それは周辺国でも同様で、完全に二国で戦争をしている。

「って、ほんと?」
「全然実感がないわよね」

この世界は魔法をぶち込んだ戦争が主流だが、ものの見事に国境で魔法が無効化するらしい。国によっては避難民を受け付けないらしい。一般避難民を装って貴族たちが逃げ込んでくることもあるらしい。

「でも貴族って一発でわかるものなのよ」

それもそのはず、家財道具をもって馬車で移動するのだ。

「普通はわずかな日持ちする食料と数枚の衣服だけで、家財は捨てていく。そして荷台に肩を寄せあっていくんだ。子供は親たちの間に埋もれるようにもたれて寝てて。そのうち誰かの足を枕にして横になってる」
「ただ寝ているしかやれることがない」

そして、魔物が出ると新鮮な食料の確保とばかりに飛び出していったらしい。

「そしてシーズルの伝説が作られたんだよね」
「そりゃあ、オーガのこんぼう攻撃を素手で止めて、返す一撃で倒したんだからな」
「その日は豚料理で豪華な食事ができたわ」
「ああ。あれが最後の食事だったな」

その翌日に、殿しんがりの馬車に乗っていたおじいちゃんたちが来ていないといって、コルデさんのお兄さんを始めとした独身の男性たちがきた道を戻っていった。

「みんながもって帰ってくれた手紙の差出人にアニキの名もあった。『娘を一人嫁にくれ』とあった。今度の返信に『再会当日を命日にしたいようだな』と書いておこうと思う」
「オヤジ、そのときは裏の腐葉土と混ぜてやってくれ。妖精たちが喜ぶ」
「腐葉土だから性格が腐っていても大丈夫か?」
「洗浄してからプールに放り込みましょう」
「頭から花を咲かせたあとにバラバラにしましょ」
「…………処理は任せてもいいようだな」

コルデさん、ピピンとリリンに丸投げするようだ。……ん? ピピンはプールと言ったけどとは言わなかったな。まさか塩水プールと言い出さないだろうか?


そんな諸々の心配はある日突如として半減した。

「戦争がやんだ?」
「ああ、両国の国境周辺国で静かになったと情報が行き交っている」

ダイバの質問に重々しくメッシュが頷く。情報の裏取りが取れていないため公表はしていない。ただ、アウミの一件で情報を共有しているため経過報告をくれた。

「今は冬の期間。それがわかった上で戦争をしていただろ?」

言外に『魔法戦争に雪は関係ない』と言っているのだ。それを理解した上で、メッシュは周囲を確認する。その様子に『もうひとつの事柄』が頭をよぎる。ノーマンたちの死によって起きる集団異常発生スタンピード。それが魔法戦争によって温暖化した大地の温度上昇と相まって、春に起きるはずがいま起きていると仮定できるのだ。

「それでヘインジルはなんて言ってる?」
「もう少しバカを楽しみたかった、と」

ヘインジルの言葉は重い。ヘインジルがバカでいられれば、何も心配することはないのだ。奴隷市の騒動のように動けば、周囲も緊迫した日常を保たなくてはならないのだから。
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